32人が本棚に入れています
本棚に追加
一方、動画配信者達と叶は旧校舎に到着していた。メンバーは動画配信の男達五名と叶、それに女性が一人の計七名だった。叶が女性を見つめていると、それに気付いた女性が話し掛けてきた。
「貴女もファンなんですか?私、ずっと初期の頃から見てて、今日誘ってもらえてもう嬉しくて嬉しくて」
「そう、私は今日たまたま誘ってもらったの。良かったら一緒に居ましょうか」
叶が笑ってそう語り掛けたが、それを聞いていた男達が割って入る。
「まぁまぁ女性同士仲良くなるのもいいけど、効率的に二組に別れて撮影するからさぁ、女の子も一人ずつ別々の組になってほしいのよ。じゃないとほら、不公平じゃん」
『何が不公平なの?』
そう問い掛けたかった叶だったがもう一人の女性は納得したように笑顔で頷いていた為、口にする事はなかった。
「よし、じゃあここら辺で別れるとしようか」
階段までやって来た所で一人の男がそう言うと、男二人と女性が二階へと登って行った。
男達は別れ際に
「上手くやれよ」
「おお、お前達もな」
と声を掛けあっている。
「さぁ、お姉さん行きましょうか」
叶と一緒になった男の一人が叶の肩に手を回して来たが、叶は冷たく払い除ける。
「すいません、あまり馴れ馴れしく触れないで下さい。それにここは霊達がいる神聖な場所なんでしょ?ノリが軽過ぎませんか?」
不快感をあらわにし、冷たく言い放つ叶を見て男達はニヤリと笑った。
「ああ、確かにそうだね。まぁ先を急ごうか」
そう言って男一人を先頭にして進んで行く。
「ほらついて行って」
不信感を募らせる叶を男達が促した。仕方なく叶も歩き出すと叶を挟む様にして残りの男二人も続いて行く。
しかし暫く進んだ所で先を歩いていた男が振り返った。
「もうここら辺でいいだろ」
「ああ、そうだな」
男達はそう言うと突然叶を壁へと押しやった。
「へへ、こんな上玉久しぶりじゃね?ちゃんと撮っとけよ」
男は下卑た笑いを浮かべると片手で叶の腕を押さえ付けもう片方の手で叶の胸を鷲掴みにした。
叶が冷たい目をして睨むと男は更に品のない笑みを見せる。
「いいねぇ、その強気な目――」
男がそこまで言った時、後ろから鈍い衝撃音が響いた。それと同時に後ろにいた男の醜い叫びが響く。
「痛い!痛えよ!」
男が床に転がりのたうち回る。その場にいた全員が驚いて振り返ると、木の棒を持った幸太が鬼気迫る表情で立っていた。
「その人を離せ!」
叶を押さえ付けていた男に幸太が殴り掛かると、男は飛び退き叶を離した。
「く、倉井君!?」
「鬼龍さん、早く逃げて!ここは抑えるから」
驚く叶を背に、幸太は更に男達に殴り掛かった。
「鬼龍さん早く!」
幸太が叫ぶと叶は一気に駆け出して行く。
「倉井君、少しだけ頑張ってて」
叶が走り去ると幸太と男達だけが残される。
「やってくれたな。ただで済まさねえぞ」
「こっちのセリフだ。ひとの地元来て好き勝手やってんじゃねえよ」
幸太と男達の間に緊張が走る。だが今までまともに喧嘩すらした事のない幸太の手は微かに震えていた。
最初のコメントを投稿しよう!