32人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんだ、なんだ?何しやがった!」
「私は何もしてないわよ……あんた達、今まで何人の女の子を地獄にたたき落としたの?生霊だけじゃない。既に怨霊になってる子もいる。それってどういう意味か分かる?怨霊って事はその子はもうこの世にはいない。あんた達が死に追いやったって事よね?あんた達を裁くのは法なんかじゃない。勿論私でもない。その子達に任せるわ」
そう言うと叶は倒れている幸太の元に歩み寄った。それと同時に男達に取り憑いていた怨霊と化した霊達が姿を現し、一斉に男達に襲いかかる。
「……許さない」
「……もう離さない……私だけのもの……」
「……貴方との子供……楽しみでしょ?……」
怨霊と化した霊達は姿を現すと各々がそれぞれの想いを口にしながら男達にまとわりつく様に掴みかかった。
一体の霊は飛び降りて自ら命を絶ったのか顔が酷く潰れていた。もう一体は怨霊化が進んでしまったのか既に全身がドクロの様になり地を這っていた。更にもう一体は身篭っていたのか大きなお腹を抱え不気味な笑みを浮かべている。
「倉井君。私じゃ君を抱える事は出来ないんだけど、こんな奴らと君を一緒にいさせたくはないから起きてくれない?」
そう問い掛けたが、幸太は意識を失ったままだった。仕方なく叶は幸太の両脇を抱えると引きずりながらその場を後にする。
「ひっ、嫌だ、止めてくれ!」
「誰か、誰か助けて」
「ああ……助けて……許して」
一人の男は馬乗りになられて首を絞められていた。また別の男は後ろから羽交い締めにされ身動きが封じられている。更に別の男は逃げようとするが、ずっと大きなお腹を抱えた女が横にへばりつき笑みを浮かべながら話し掛けていた。
男達の阿鼻叫喚が響き渡る中、叶は幸太を引きずりながらようやく、旧校舎の入り口の辺りまで戻って来れた。
流石に息も上がり、汗だくになっている。
「流石に男の子引きずって来るのは重労働ね。もう無理」
息も絶え絶えになりながら幸太を見つめて叶が呟く。幸太は依然気を失ったままだ。叶は少し心配になり口元に手をかざし呼吸を確認する。
「息は……してるね。良かった」
顔を間近で見ると幸太の怪我があらためて酷い事が分かる。瞼は腫れ上がり、あちこち切り傷だらけだ。
「ごめん、怪我させちゃったね。……私みたいな変な女の為にそんなに頑張っちゃ駄目だって……まだ起きてないよね?起きちゃ駄目だよ」
幸太がまだ気を失っている事を確認すると叶は幸太の頬を優しく手で持ち数秒間唇を重ねた。
「卑怯かな?ごめんね。でもいい加減にしてくれないと私の気持ちも揺らいじゃうんだよね……君が本当の私を知ったらどうするかな?……気にはなるけどね」
叶は寄り添うように腰を下ろして意識のない幸太に優しく語り掛けていた。
それから約三十分後、逃げ出した女性からの通報を受けようやく警察が駆け付けた。にわかに騒がしくなる旧校舎に、遅れて弘人と咲良も駆け付ける。
「叶さん大丈夫ですか!?」
駆け寄る咲良に笑顔で手を振り叶が応えていた。
「来てくれたんだね、ありがとう。倉井君をお願い出来る?私は多分面倒臭い事になりそうだし」
気を失っている幸太を二人に預けると叶は警察と共にその場を去って行った。その時の叶の儚い笑顔が咲良の印象に深く刻まれた。
最初のコメントを投稿しよう!