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暫く叶が浜辺で考え込んでいると咲良が弘人を伴って駆け寄って来る。
「叶さん、すいません遅くなって。変な奴らにナンパとかされませんでしたか?」
「大丈夫よ。一人声掛けて来た人がいたけど『彼氏待ってるんで』って言ったら簡単に引き上げて行ったし」
「ああやっぱり。楓さんの海の家で座って待っててくれたら良かったのに」
咲良が頭を抱えてわかり易く嘆くと、叶が微笑みながらそれを否定する。
「そんな皆忙しそうに仕事してる中、ドリンクだけ頼んでずっと座ってる訳にもいかないでしょ?それに一人で考えたい事もあったしね」
「考え事ですか?」
「そう。皆お腹減ってるでしょ?さぁご飯行きましょ」
少し不思議そうに首を傾げた咲良だったが、叶はそれ以上の詮索を遮る様にしてさっさと歩き出した。慌てて二人が後を追う。
「叶さん何か食べたい物とかありますか?もしくは食べれない物とか?」
「特にないわね。それにこの辺りの飲食店は分からないから任せるわよ」
「本当ですか?あの、じゃあ焼き鳥屋とかでもいいですか?」
眉尻を下げて少し申し訳なさそうに尋ねる咲良だったが、叶は満面の笑みで頷いていた。三人はそのまま駅前の焼き鳥屋に着くとまずはグラスを合わせる。
「じゃあ二人ともお疲れ様」
「叶さんとの出会いに」
「これからもよろしくって事で」
「乾杯!!」
今日も朝から働いていたせいもあるのか、乾杯の声と共に弘人と咲良は一気にグラスの半分程を飲み干した。
「ぷはー、生き返る!」
咲良が満足そうにしているのを、叶は笑みを浮かべながら見つめている。
「鬼龍さん、食べ物何にします?」
「ああ、任せるわよ。こういう所はおすすめの物適当に頼んでくれたらそれをつまむのが一番いいから」
「わかりました。じゃあ俺達のおすすめ頼んでいきますね」
弘人がメニューを見つめながら注文をしていると、咲良がテーブルに肘をつき、真剣な表情で叶の方を向く。
「ねぇ叶さん。幸太君の事どう思ってます?」
なんの前置きもなくいきなり核心に迫る様な事を尋ねる咲良に弘人は思わず口にしたビールを吹き出しそうになった。だが叶は笑みを浮かべながら冷静にそれを受け流す。
「どう、って言われても少し難しいんだけど、気にはなるよね。ただそれは男女って事じゃなくて人としてって事でね。彼さ、いつもあんな感じ?少しおどおどしてるっていうか、自分を出さないっていうか……」
「ああ、幸太君優しいんですよ。人が良いっていう感じですかね」
「良く言えばそうね。まぁ本人にも言ったんだけどさ、余り度が過ぎると見方によっては情けないってなるよって」
叶の話を聞いて二人は顔を合わせて苦笑いを浮かべる。叶の言う事に思い当たる節が二人にはいくつもあったからだ。ただそれを幸太本人にも叶が伝えてる事に弘人は少し嬉しく思った。
「幸太に言ったんですねそれ。あいつ何て言ってました?」
「俯いて分かってるんすよって言ってたかな……実はね、あの送ってもらった時、元彼女の唯ちゃんって子に会ったんだけど倉井君から何か聞いてる?」
叶の問い掛けに咲良は目を丸くさせ首を振るが、弘人はバツが悪そうに俯き、頷いていた。
「えっ何?何があったの?弘人何か知ってんの?」
「いや、知ってるっていうか幸太から軽く聞いただけで……」
「咲良ちゃんは聞いてないんだ。まぁ簡単に言うと送ってもらってる最中、その唯ちゃんが現れてね――」
叶が当時の事を話すと咲良の表情はどんどんと険しくなり、ビールをあおる手も早くなっていた。叶もつい饒舌になり話を進めていくが咲良の苛立ちが募っていく。
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