31人が本棚に入れています
本棚に追加
その日眠りについた幸太は不思議な夢を見る。
幸太が海辺で弘人や咲良と遊んでいると、突然巨大な波にさらわれてしまう。なんとか浜辺で留まろうと耐える幸太だったが、気が付くと周りには誰もいなくなっていた。
二人は波にさらわれてしまったのか――?
焦る幸太だったが突然誰かが足をつかんできた。驚いた幸太が身らの足元に目をやると、誰のものとも分からない手が自分の足をしっかりとつかんで離さなかった。
幸太はもがき、必死に抵抗するが手は離してはくれない。
「逃がさない――」
誰とも分からない、低くくぐもった声でそう言われて、幸太は叫びながら目を覚ました。
ベットの上で身を起こし、荒れた呼吸を整える。
「夢か――」
そう言って髪をかきあげると、ベットに再び倒れ込む。時計に目をやると既に十時は回っていた。
「はぁ、夢でもろくな事ないな」
そう呟き汗だくになった体を綺麗にするべく、もう一度シャワーを浴びる事にした。
シャワーから帰って来るとスマホにメッセージが来ている事に気付き、確認すると弘人からだった。
(おはよう。今日は天気が良いぞ。明日からバイトの日々になるし今日は三人で海に行かないか?)
メッセージを見た幸太は一人片方の口角を上げながら呆れた様な笑みを見せた。
『明日からもバイトで海にずっといるのにどれだけ海が好きなんだ?』
そんな事を考えながら弘人に返信する。
(おはよう。了解。ただ今起きたところだから昼ぐらいに現地集合で。楓さんの所でいいか?)
そうやってメッセージを送ると弘人からすぐに返信が来る。
(了解した。明日からも楓さんの所に行かなきゃいけないのに今日も行くってお前はそんなにバイトがしたいのか?あっ、それとも楓さんを狙う気か?もしそうなら全力で援護射撃するぜ。笑)
「なんでだよ!」
最後にあった(笑)に少しイラッとしながらも幸太は笑って一人でつっこんでいた。
その後部屋で少しゆっくりし、支度をすると集合場所である海の家を目指した。
歩いていると強い陽射しが照りつける。片手で僅かに日除けを作ると空を見上げた。
「正に海水浴日和だな」
そう呟くと少し急いだ。
浜辺にある海の家に着くと二人は既に到着しており、海の家のオーナーである二階堂楓と楽しそうに話していた。
「おっ、来た来た」
幸太に気付いた弘人が手を振り合図していた。幸太が駆け寄ると丁度楓と目が合った。幸太が笑顔で会釈すると楓も笑みを浮かべる。
「楓さんお久しぶりです」
「久しぶりね幸太君。別れたんだって?あの彼女と。それは仕方ないとして、私と幸太君じゃ歳が離れ過ぎてるからごめんね。こんなおばさんよりももっと若い子がいっぱいいるでしょ?それに私にはちゃんと彼氏もいるんだし」
笑みを浮かべながら優しく語り掛ける楓に幸太は戸惑いながら苦笑していた。楓の横にいた二人に目を向けるとニヤニヤと少し悪そうな笑みを浮かべている。
「お前らのせいで俺は二日連続でフラれたじゃないか!」
幸太が二人に向かって叫ぶと、二人は大声で笑い転げていた。それを楓は微笑みながら見つめている。
「楓さん。楓さんはそんなにおばさんじゃないですよ。楓さんは落ち着いていて大人の魅力があります」
「ふふふ、君もお世辞が上手くなったわね。とりあえず明日からのバイトはお願いね」
そう言って楓は裏の方へと姿を消した。幸太の言う通り、三十代の楓には落ち着いた雰囲気があり、同年代の咲良や唯には無い妖艶な大人の魅力を感じさせた。
楓が消えた後、幸太は弘人の方を向く。
「お前ら楓さんに何か変な事言っただろ?」
「いや別に変な事は言ってないぞ。ただ幸太が昨日彼女と別れたみたいで明日からひょっとしたら楓さんを口説いてくるかもしれないから気を付けて下さいって言ってただけで」
「十分変だろ!」
そう言って笑う弘人に幸太も笑いながらつかみかかった。幸太達の忘れられない夏が始まる。
最初のコメントを投稿しよう!