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爽やかな風が吹く、春のとある日。
花音(かのん)の近所の公園では桜が満開で、お花見をしに集まっている人がたくさんいた。
花音は花が好きだった。名前に花という漢字がついていることもあり、小さな頃からお花集めなどが趣味だった。叶うことなら、四季折々の花が一度に咲いているところを見てみたい。
大きな桜の木の下では、幸せそうにその小さな口には収まらないような大きさのおにぎりを頬張っている小さな子どもに、笑顔で話している老夫婦…
ん?
桜の木の周りに、なんでカーネーションが?
よくよく見ると、他の花も咲いていた。
薔薇、コスモス、マリーゴールド…そして、なんとヒマワリまで咲いていた。
そう、四季折々の花が、桜の周りに咲いていた。その手元?茎もと?葉もと?には、お弁当箱らしきものが置いてあった。
お花が、お花見をしている。
花音は目が離せなかった。夢にまで見た光景が、今目の前で起こってる…!
好奇心には勝てなくて、そっと近づいてみた。
「こっ、こんにちは!」
「あら?人間の方かしら。」
穏やかそうな声をしたのはコスモスだった。
「はいっ!花音と言います!」
「いいじゃん。人間もいたほうが楽しいっしょ!あたし薔薇。花音、よろしく!」
爽やかな挨拶をしてきたのは、花音が花の中で一番好きな薔薇だった。
「そんな敬語じゃなくていいよ。花音ちゃん。ちなみに私、マリーゴールド。よろしくね!」
すごい。花が、花が喋ってる。緊張して、会話をしてることに違和感がなかったけど、よくよく考えてみたら普通ありえないことだ。
「僕はカーネーション。花音、よろしく!」
「私はコスモス。花音ちゃん、お花は好きかしら?」
ここでいいえと答える理由は、花音にはない。もちろん返事は、
「はっはい!」
「よかった。お花好きなら嬉しいわ。ならマリーゴールド。一緒に撮ってしまってもいいんじゃないかしら。」
「そうだね。せっかくみんな揃ったんだ。花音ちゃんも一緒に写真でも撮ろうよ。」
そういって、マリーゴールドは鞄の中からスマホを取り出した。
「え?お花ってスマホ持ってるの?」
当たり前のようにスマホを取り出したマリーゴールドに、花音は驚きを隠せなかった。
「へ?だって携帯会社の契約書に、お花の契約はできませんなんて書いてないでしょ?
ダメ元で聞いてみたら、全然いいっすよって言われてね。世の中試してみたら結構いけたりするのよ。」
「はっはぁ、、」
花音はもう頷くことしかできなかった。
パシャ!
「うん、うまく撮れた。」
マリーゴールドが言った。
「なら、後で私達に送ってよ。」
薔薇が、当たり前のように言った。
「了解。グループラインに送っとく。」
すっすごすぎる。ラインまで持ってるのか…
花音は花がスマホ片手に喋っているのがいまだに信じられなかった。
「あっいけない。そろそろ風が来るわ!」
コスモスが叫んだ。
いきなり、風が吹いてきた。
「じゃあね、花音ちゃん。私達、風に乗って色々なところに旅してるの。また会いましょう!」
コスモスがそう言った直後に、とてつもなく強い風が吹き、砂嵐が花音の周りを包んだ。
「きゃあー!」
目に砂が入り、痛くて開けられない。
砂嵐が収まり、やっと目が開けられるようになった頃には、もうそこに花たちの姿はなかった。だが、
「またね、花音ちゃん!」
最後にそう、聞こえた気がした。
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