サラはひそかに咲き誇る。

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サラはひそかに咲き誇る。

「皆さん、今年もお花見の季節がやってきました」  所属する文芸クラブにて、先生がどこかうきうきとした口調で言った。四月、あたし達が進級したばかりの時期である。あたしも今年で小学校五年生になった。クラスは変わったが、一年生の時から参加している文芸クラブのメンバーは卒業した六年生と新入りの一年生以外にあまり変化はない。  あたし達の学校では、小学校一年生の時からみんなどこかしらのお楽しみクラブに参加することを推奨されている。運動が好きな子はバスケットボールクラブに入ったりするし、あたしみたいにそんなに体を動かすのが好きじゃない子は文芸クラブや漫画クラブに入ったりする。  文芸クラブに入ったのは他のクラブよりも面倒が少なそうと思ったからだったけれど、あたしは存外気に入っていた。進級のたびにクラブを変更してもいいけれど、三年生からずっと文芸クラブを続けているのはなんだかんだで居心地がいいからだ。  毎日好きなだけ好きな本を読んでいていいし(児童書からラノベまでなんでもOKだ)、なんなら漫画を読んでいても咎められない。そして時々、自分の小説や詩をみんなの前で発表する会や、イベントが設けられる。  今回のお花見も、そんな毎年のイベントの一つだった。 「今年は今週金曜日に、A公園の桜が満開を迎えるそうです。金曜日なら、土日よりもすいてますから、皆さんでお花見するのにちょうどいいでしょう」  文芸クラブの顧問であるカナコ先生が、みんなをぐるりと見回して言った。 「今年は桜にちなんだ川柳をみんなで読んでもらって、発表することにしようと思います。それと……トランプとかのミニゲームに加えて、今年も皆さんでおいしいお菓子を食べましょう」 「あ、せんせー!コー堂のケーキが食べたいです、デコレーションされたすげーの!」 「あれは高いから駄目です。それとも田中くんが自分のお小遣いでみんなに買ってくれるんですか?」 「え」 「おおおおお、いいじゃん田中!お前のカネでみんなにオヤツを提供するのだ!」 「たーなーか!たーなーか!」 「ぎゃあああああああああああああ無理無理無理無理!俺の小遣いマイナスになっちまううううううう!」  ふざけた発言をした少年が、みんなから揶揄われて悲鳴を上げている。カナコ先生もノリがいいなあ、とあたしは苦笑した。  多分、今年もお花見団子なんかが用意されるのだろう。それもそれで楽しみだ。学校が、生徒たちのこういうイベントにケチらずお金を出してくれるのもありがたい。 ――A公園かあ。  あたしはちらっと窓の外を見たのだった。  毎年、あたし達のクラブがお花見をする場所は決まっている。A公園、B公園、C公園のいずれかだ。どこの公園も桜が綺麗なことで有名だった。今年は一番学校に近いA公園にするらしい。 ――帰り、寄ってみるか。  あたしはなんとなく、寄り道をすることを決意する。  ちょこっと遠回りすれば、家に帰る前にA公園に寄るのは可能なのだった。
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