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水曜日。
クラブ活動がある六時間目。あたしが本を読んでると、同じ五年生で仲良しのメイちゃんが声をかけてきた。
「ねえねえ、コハナ。あんたさ、川柳のネタ考えた?お花見の」
「あー……ううん、まだ」
「そっかあ。あんたも駄目かあ」
はあ、と男勝りのメイちゃんは、派手に椅子にもたれてそっくりかえった。
「いやあ、なんか思いつかねーかなとアタシも思ってんだけどさあ。俳句じゃなくて川柳だし?どうせなら、聞いた奴らが爆笑するようなネタを考えてえんだよなあああ」
「あはははは、さすが、メイちゃんは芸人志望だもんね」
「うん。そのうち関西弁も練習すんぜ!……とにかく、桜の要素を入れた面白い川柳考えてんだけど、全然思いつかなくて」
なんでもお笑いに繋げようとするのがメイちゃんらしい。あたしは苦笑する他ない。
「ネタ探しのために、ネットで調べてみたんだけどさ」
椅子をゆらゆらと揺らしながら言うメイちゃん。
「桜って、日本じゃなくて中国から来たって説が有力っぽいんだよ。大昔……長江から流れてきた桜の種子が、黒潮に乗って日本に到着してさ。その種が日本各地で自生したことで、日本で桜が咲くようになったとかなんとか」
「へえ。中国由来なんだ」
「ってのが一番の有力説っぽいんだけど、詳しいことは昔すぎてよくわかんねーんだって。そもそも、中国に桜があったとして、それがいつから?なのかも調べてもわかんなかったというか。紀元前からあったんじゃないかなーってかんじ」
彼女は窓の方を見た。この学校の校庭にも、桜の木が何本も植わっている。校庭をぐるりと囲む桜の木々はなかなか見事なものだ。
ただ、この学校の校庭はそんなに広くないし、校庭でお花見すると他の運動系のクラブ活動の邪魔になってしまう。学校でお花見しないのはそういう理由なのだった。
「気づけば中国や日本にあって、“めでたいもの、美しいもの”としていろんな人を魅了してた、と。なんか、魔法にかかったみたいだよな」
いたずらっ子のようにメイちゃんは笑う。
「桜に纏わる怪談もいろいろあるし、本当にお化けが憑りついてたりして!で、自分を崇め奉るようにみんなを洗脳してたりして!」
「もう縁起悪いこと言わないでよ。せっかく楽しみにしてるのにさあ」
「あははははは、ごめんごめんコハナ」
そう、あまりにも縁起が悪い。あんなに美しく、魅惑的な花なのだ。魔法とか呪いとか、そんなものがなくたって人は魅了されて当然だろう。
――そう、桜の美しさは、これからどんどん世界中に広まっていくはず。
世界中がピンク色の美に包まれる。そんな光景を想像すると、それだけで舞い上がってしまいそうだ。
既にアメリカには日本の桜が譲渡されているらしいし、他の国に桜が行くのもきっと時間の問題だろう。それこそ、もっと丈夫で、暑さ寒さに適応するような品種改良がされていくかもしれない。
「楽しみだなあ……」
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