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そう、誰にも渡さない。
最高の桜は、最高のお花見は、あたしだけのものなのだ。だから。
「るんるー、るんるんるー」
あたしは金曜日。
いつもよりずっと早く家を出て、こっそりA公園に寄り道をした。そして、一番お気に入りの桜の前――お花見スポットのあたりの地面に、例のスプレーを撒いたのである。
吸っても問題ない。あたしには何の害もない。だって、桜があたしを選んでくれたのだから、あたしだけは大丈夫なのだ。
「さあて」
あたしはにんまり笑って、そのまま学校に向かったのだった。
「これで、あそこは、あたしだけの場所」
放課後。
お花見をするべく、あたしと一緒に公園に向かった文芸クラブのメンバー。カナコ先生が、茫然と呟いたのだった。
「え、え?何これ……」
あたしは彼女を無視して、“場所取り”していたお気に入りの桜の前に向かう。一歩歩くたびにぐしゅ、ぐちゅ、と濡れた音がしたけれど気にしなかった。
平日だからって、油断しなくて本当に良かったと思う。この桜に近づいた人は思ったよりも多かったようだ。――人型の血の染みと、溶け残った肉片があちこちに落ちている。
「ここ、あたしの席なんで、誰も取らないでね!」
あたしは血まみれの地面に一人分のシートを敷いて笑ったのだった。
「こっち来ると、あたし以外はみんな溶けちゃうから!」
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