弁当と恋はお早めに

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 あまりの空腹さに苛立ちを通り越して怒りが沸き上がった。とっくにチャイムは鳴り終わっているのに、肝心の授業が終わらない。  数学の熱血教師たいもん(大本(たいもと)先生)の力説が続いていた。 「明日やればいいじゃダメだ。今日勉強しなきゃ意味がない。いつやればいいですか、という質問は愚問!やるのは今だ、今しかない!」  完全に誰かのパクりじゃん、と思いながら授業を聞き流す。お腹が空いて死にそうだった。餓死寸前。本当に餓死寸前ならこんな感情さえなくなっていると思うが、そこは先進国日本の気楽さだ。  チャイムから五分過ぎたあたりでようやく授業が終わりを告げ、教室の後部ドアから飛び出した。弁当を買わなければならない。今朝は遅刻寸前でコンビニによる暇さえなかった。学校は昼休みの外出は禁止。よって、食堂で食べるか、売店でお弁当かパンを買うしかない。  二時間目の終わりにさっさと買いに行けばよかったが、すっかり忘れていた。果たしてお弁当は残っているのだろうか。どうかお願い、オラに力を。人に迷惑がかからない程度に猛ダッシュのカーチェイスを繰り広げた。まあ、誰も追いかけてはいないし、追いかけられてもいないが。  そのまま渡り廊下を駆け抜け、生温い風が頬をかすめた。売店に人はまばら。つまり、ほとんど売り切れてしまっているということを意味している。  奇跡的に遠くからでもからあげ弁当が見えた。神様は存在したのだ。実際に存在しようがしまいが全く信じてはいないけれど、そんなことはどうでもいい。  涎が流れ落ちそうになるのをこらえながら近づき、手を伸ばそうとしたその瞬間、横から風のように現れた女の子がお弁当を手にした。ショートボブの小柄な細っこい女の子で、ペラっと風に飛ばされそうな薄い紙切れのようだった。  それなのに不思議と軽やかで愛らしい。ネクタイの色を見ると青色で、同じ学年だとわかる。はて、こんな同級生いたっけな……と棒立ちになって考えていると、女の子が両手でからあげ弁当を包み込み目の前に立っていた。 「からあげ弁当欲しかったの?残念だったね」  とても高校三年生には見えない澄んだ瞳で見上げられるも、やはり記憶にはない。 「……何組?」  そう尋ねると、からあげ弁当の女の子は目を丸くした。そしてすぐにムッとした表情になり機嫌を悪くしたようで、険しい形相と声色で言い返してきた。 「ナンパ?キモっ!」  キモって……そんなキモいこと聞いたか、俺。クラスを尋ねただけなんですけど?個人情報といえば個人情報だけど、連絡先も名前も聞いてないし、クラスを聞いただけでナンパになるなら、もう今後一切女子とはしゃべれないっすねマジ。  
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