桜よりあなたたちへ

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桜よりあなたたちへ

 毎年 毎年  私を見に来るあなたたち  どう? 今年も綺麗でしょう  昨年もあなたたちは私を見ていたわ  私も毎年あなたたちを見ているの   やがては花が終って   夏はあなたたちに日影を作り  秋には紅葉して  冬には花咲くころを夢見て蕾を天に向けていく  何度も何度も 繰り返して     あなたたちも 何度私を見た事でしょう  あなたたち 随分年を取ったわね  でも いつでも お花の私と会う時には  春色のお洋服で会いに来てくれる  二人で小さなシートを敷いて  満開の花をつけた私を見上げるのよね  美味しそうにビールを一本だけ飲んで  おいしそうなおかずを少しだけもって  そして 夏の暑い日も 秋の紅葉の頃も  寒い冬には私を一番気にしてみているのがあなたたち  「ねぇ、花の芽が膨らんで上を向いてる。春が来るね。」  必ず 毎年聞く言葉  他の人たちとはちょっと違う  私が花を咲かせていない時にも  あなたたちは私と寄り添っている  そんなあなたたちがお花を見に来たときには  私は特別な風に花びらを揺らして  日の光に反射してさざめくような私を  他の人に見えるよりも美しい 私の花をみてもらうの  他の人には内緒で  もちろん あなたたちにも内緒で    今年ももうじき私の花の季節が来るわ  今年もあなたたちが来るのを待っているわ  花をゆすって 少し花弁の落ちる時が  あなたたちの一番良い笑顔が見られるの  あなたたちの花のような笑顔を見るために  私は 私の花を揺らすの 【了】    
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