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代替えは三日坊主
「なら帰ろうか?」
「ん?・・そんな、そんなのやぁだ! 買ってやるって言ったじゃん⁉」
小さな手の甲と頬はもう涙でグジョグジョだ、おまけにお鼻の下にも二本のレールが出没し始めた。
「聡、もう一度言うぞ! お父さんは買わないとは言ってない、約束通り買ってやる!でもどちらかだ。 あの小さいのなら今日買ってやる。でもこのデカいのは来月の誕生日が来れば買ってやる。サアどうする、今度はお前が決める番だ!」
聡の涙は一瞬にして止んでいた。まるでこれまでが嘘泣きだったかのようだ。 聡は顔を覆う掌に作られた隙間からそれらを見つめ直し、考え始めた。 あっちを向いたりこっちを見たりだ。 それも何度か、そしてようやく決心した。
「・・あっちでいい」
聡が指さしたのはあちらの小さなミニチュアだった。その時の親父さんはがっかりした様子だった。
親父さんは聡の決心が翻ることを期待して更に念を押した。
「本当にあれでいいんだな⁉」
「う・・うん」
でも買って帰って気が付いたのだが、ミニチュアのシステムは変圧器も無ければそもそもレールからの電源供給タイプなんてものではなかった。動力源はゼンマイだった、そうそれこそ本当のおもちゃだったことに二人ともがっかりだった。
勿論、聡の電車ごっこは三日坊主に終わった。そして聡の心の奥底には凄く重い後悔がしみ込んでしまった。
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