待てば海路の日和あり

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待てば海路の日和あり

(さとる)は急いでそれを拾い握りしめた。そしておもむろに今、出てきた工場のゲートの方に視線を送った。  鉄道会社の作業服を着た叔父さんが手を振っている。 聡は小走りでその叔父さんの方に近づいた。 「有難う、助かったよ・・もし後続車が跳ねたりすると危なかったもんな、ホント有難う」 「・・・いいえ」 聡は拾った金属片を叔父さんに返した。 「坊主、おまえ鉄道車両が好きなのか?」 「えっ・・まぁ」 「時々フェンス越しにうちの車両を見てんだろ、だからそう思ったんだ」 「お、おじさん、そっ、その金属って車両のどの部分に使われてるの?」 その作業服の酷い汚れとイカツイ顔が(さとる)にはおっかなく見えたようだ。 詰まる聡の言葉がそれを物語っている。 「俺ってそんなにおっかねのか? 顔が怖いって同僚にもよく言われんだけど、大丈夫だよ、そりゃそうと坊主ってこんな鉄クズに興味有るんだ? でもな・・ここ迄小さく刻まれていると何処の部品なんて俺には分んねえ・・なんなら来週の今ぐらいに覗いてみないか? 何処の部品なのか俺にも分かるヤツ、取って置いてやるぜ」 「・・・」 「そうだよな、いま会ったばかりのおっかねえ俺なんかの言う事、信用できっこねえよな⁉」  叔父さんの印象は確かにおっかない、でも躊躇したのはそれだけでは無かった。 聡は以前にも同じような場面で悩んだことがあった。 そうなんです、親父とのデパートのおもちゃ売り場での出来事を思い返していた。 僅か一月が待てなくて後悔した重大なあの出来事だった。 「おじさん有難う、来週だよね! 僕、待つよ! 一週間ぐらいならなんてことないよ、きっと来る!」  そんなことがあった聡、公認とまでは言えないが親父さん同様、鉄くずだけではなく工場内への出入りまで許されることになったと言う訳だ。 勿論、親父にはそんな出来事を話す筈が無い。常から車両工場には近づかないように注意されていたからだ。
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