それだけの関係

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ついさっき気づいたこの気持ちは、実はずっと前から抱いていた気持ちで、しかもそれを、理人は最初から気づいててオレを待ってくれていた。オレが自分で気づくまで。 「オレさ・・・理人が結婚するって聞いて、仕方ないって思ったんだよね。オレたちはそれだけの関係で、ただ本能の欲求を満たすためだけの関係だから。理人に好きな人が出来たら別れなくちゃいけないって。でもさ、そう思ったらなんか胸が痛くて」 急に話し出したオレに、理人は焦ったようにオレを見る。 「オレは・・・」 「分かってる。結婚しないんだろ?分かってるよ。でもこれはまだそれを知らなかった時の話。他の誰かと結婚するって聞いて、オレね、悲しかった・・・うん。悲しかったんだ。そんな相手と出会って付き合いだしたのに、まだオレとの関係を続けていた理人に腹も立った。オレって理人にとってそんなに軽い人間だったのかって」 オレの言葉に反論しようとした理人の口を、オレは手で押えた。 「おかしいだろ?オレはそれだけの関係だって割り切ってたのに、なんでそんなこと思うのかって」 オレが何を言おうとしているのか分かったのか、理人の目が大きく見開く。 「オレ、理人が他の人と結婚するって聞いてショックだった。オレを好きじゃないんだって改めて思い知らされて、胸が痛かったんだ」 こうして口に出すと、オレの胸がいっぱいになる。そして理人への思いが溢れ出し、それが涙となって流れ出す。 「ごめん。オレ鈍くて。理人の気持ちどころか自分の気持ちも分からなくて、きっと理人をいっぱい傷つけたよね」 知らないことは、時には人を傷つける。オレはきっと、何度も理人を傷つけたに違いない。なのに理人は小さく首を振って、オレの涙を拭ってくれる。 「そんなことないよ。だって由依はちゃんと態度で示してくれてたから。身体いっぱいでオレに教えてくれてた。由依の気持ちを知ってたから、オレはなんの不安もなく待てたんだ。それに楽しみにしてたんだよ。いつ気づくのか。気づいたらどんな反応をするのかって」 そう言って笑う理人からは、とても優しい気持が伝わってくる。 「ベッドの上で必死にオレを求める由依はもちろん可愛くて、それ以外の時も無意識にオレにくっついて来る由依が愛おしくて。早く気づいて欲しいって思いながら、気づいたら恥ずかしがってしてくれなくなっちゃうかもって思って、でもその恥ずかしがる顔も見たいなって思ったり・・・ほら、その真っ赤な顔。ずっと見たかった」 改めて冷静に言われる自分の痴態に、オレの顔が熱くなる。恥ずかしくて隠れたいのに、抱きしめられた身体は逃げられない。だからせめて顔だけでもと思ってるのにそれも許されず、オレは視線を下げた。そんなオレの頭に可愛いと言ってキスをする理人に、さらに顔が熱くなる。 「大好きだよ。誰にも渡したくない。由依はオレのものだから。由依が嫌がっても逃がさないから」 今までの優しい雰囲気から一転して、ぞくりと背中がザワつく。身体じゃなく心が縛られる感覚に、それが理人の独占欲だと気づくけれど、オレの中には嫌悪も恐怖も湧かなかった。 「このままここに閉じ込めていい?こんな可愛い由依を誰にも見せたくない。ずっとオレの傍にいてよ。仕事も辞めて何もしなくていいから。オレに由依の全部をちょうだい」 いつもより低い声でそう言うと、理人は独占欲に束縛を乗せてオレを縛る。その初めての感覚にオレの背筋がゾクゾクして身体が小刻みに震えるけれど、束縛された喉からは言葉は出ず、オレは口だけを動かして理人を見上げた。と、その時、理人が弾かれたように身体を離した。そしてそれと同時にオレへのアルファの力が消える。 「ごめん・・・オレ・・・こんなことするつもりはなかったんだ」 飛び退いた理人はそのままベッドから降りようとしたけれど、オレはその腕を掴んで止めた。正確には止められてはなかったと思う。だって身体はがたがたでどこにも力が入らないから。それでも理人の腕を掴めたのは火事場の馬鹿力と言うやつだ。
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