6人が本棚に入れています
本棚に追加
序章
「○@○※○////○▽▲……」
西暦千年と数年経った晩春。現代では、平安と呼ばれる時代。
太陽が水平線の遥か彼方へ隠れるように沈もうとしている中。
ただいま、誰もいない原っぱ。一人で佇んでいる〈ソレ〉は、呟いていた。
周りはソレの空腹状態を物語っているかのように、この時期に芽吹く、タラの芽、タンポポ、と言われる植物が無ければ、青々とした雑草も無い。ただ、あるのは塩っ気のある土。
枯れた土地と背後に、一面に広がる死んだような海の風景。
さざ波の音は、本日一日の終わりを告げるかのように、自己主張の無い波の音になっていた。
〈ソレ〉は言葉を出したくてもできなかった。
ーー言葉を知らなかったからだ。
そんな中、無情にも腹の虫は容赦なく、グぅぅうう~……、と大きな音で主張する。
生命の危機を感じたソレは胃の中に入れられる食べ物が、落ちていないのか足元が見えづらくなっていく視界の中で歩き探す。
ふと、海辺に視点を向けると【何か】が岩の端に引っかかっていた。
食べ物かと思った〈ソレ〉は、急いで近づく。
それは、━━塊だった。
自身の足をかかんで両手で掴み拾い上げる。両腕に収まる程よい柔らかい塊から、生臭い香りが鼻に鈍く貫き、反射的に落としそうになってしまう。
だが〈ソレ〉は、食べた。
空腹に、勝てなかったのだ。
口に含んだ瞬間に広がる血生臭さ、徐々に舌の上の転がり溶け込む。
歯で力強く噛むと、グギュ、ボギッ……、と口の中で激しく奏でて最後に飲み込む。
食べ終わった後、深呼吸をすると自身の身体が熱くなった。内側からぐにゃり、と形が変貌していく感覚が広がっていく。
だが、それは感覚じゃなかった。
視界に映し出されている自身の手が変貌していっているのだ。
歪だった手が、時間と共にふっくらとした薄い橙色に変わっていく。
急いで、自身の姿を確認しなくては、と思った〈ソレ〉は近くにあった水溜りを覗く。
すると、先程の自身と違う姿の生物がいた。
その姿は、先程食した生物の顔。目がくりっ、としており、睫毛が上向き。頰がふっくらとしている血色の良い可愛らしい姿がそこにいた。
「あ…、ア…、こ、え。ン、ん」
と今まで出せなかった言葉を小さく吐き出した。
「……、ん。あ、なるほど、この【げんご】がココ、のコトバ……なのですね。ん、ギ、」
(これは……、訓練する必要性がありますね。しかも長い時を。今、取り入れたモノの液体分析したところ【ニンゲン】という有機物。確か……前にデータ抽入された情報によると、一致する。そして歳は三年、というデータ。
だが、コレだけを摂取したとしても、情報が足りない……!それに)
「お・おなかすいた……。この幼子からのキオクから、く……“くうふく”という単語……だったな。それに、ここはどこなんだろうか?」
男でも女でもどっちつかずの、舌足らずで未発達なソプラノ調の声色が響く中。
上手く言葉が出せない自身にイラついたのか、無意識に舌打ちをする。
(もっと、この土地の言語、知識、社会情報を取り入れなくては……!赤子並の記録だと会話と知識が限界ある。
〈今回の目的の為にも〉!!その為にも早く情報収集をして本拠地へデータ転送しなければ……〉
最初のコメントを投稿しよう!