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周りを見渡しても、他にも口に入れる事ができるモノがあるのか確認したが本当に無い。
ただあるのは、いつの間にか十歩先にある左隣にあるのは扉のみ。
二枚の横額障子と言われるものだった。
一つだけ違う箇所があった。
締め切り状態の障子ど真ん中に、空洞があるのだ。黒い満月のような空洞が、何とも言えない魅力さを感じさせる。
「……なんだ?これは⁇」
それを視界に入れた瞬間、不思議と懐かしい感覚に包まれる。
惹かれるように一歩近づくと、━━視界が揺れた。
横揺れ地震のように大きく歪み、吐き気が込みあがる。これはマズいと思った刹那、逃げなくては、と思考を切り替え後ろへ一歩下がる。
だが、動かない。いや、動けないのだ。
刹那、足は逃げるどころか進みだす。自身の意思に関係無しに前へ、前へ、と進んでいく。
頭の中では行きたくないのに、身体は拒絶する。
まるで、この身体の所有権を奪われたような、感覚。抵抗しても、抵抗しても、無意味のまま動きが止まらない足。
<ソレ>は焦燥感に駆られ、腹の底から叫んだ。
だが、無駄に終わってしまう。
そして、逃げ出したい場所へ辿り着いてしまった。
障子は、待っていましたと言わんばかりに、重く佇む。
それは、━━怖い、恐いの言葉が一人の者を支配した。
だが、そんなことを露知らずの障子の扉は、勢いよく開かれた。
《━━ データ ショキカ カイシ》
無機質な機械音が告げた後、中から光が放たれた。眩しさで咄嗟に目を細めてしまいつつ、足が竦んでしまった。
次の瞬間、光の形状を変える。
それは鮮やかな虹色の帯。艶やかなシルクのような柔らかさが、相手を包み捕獲をしようと巻き付く。逃がさないように四肢を縛り、拘束をした。
抵抗すらできなくなった今。光は容赦なく、次に段階に動く。四肢を拘束いている帯に何かが生まれた。徐々に起き上がるように具現化していく数個の何か。
蕾。━━百合のような蕾だった。
《 ザイニン キロク キュウシュウチュウ ━━》
残酷な言葉を耳にした瞬間、脳内がフリーズした。
(罪人ッ!?ワタシが!!ワタシは、情報収集の為に派遣されただけの……)
その直後、━━脳みそが揺さぶれる衝動が襲いかかる。
同時に縛られている箇所から脳内を通して、記憶の奥を吸い取られる感覚と意識の薄れも襲ってきたのだ。残り僅かになっている意識の中、視界に入ってきた蕾の開花。
それを最期に、意識を失った。
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