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◇◇◇
「だ~ァ~かぁ~ら~。なんで、あたいらみたいな身分低いモンが<氏>を持っちゃいけないのか、ってさっきから聞いてんだよ!こっちは!!
いい加減答えないとアンタの陰嚢(睾丸)をもぎり取るわよ!!」
「わ、ーー若い娘がそんな言葉使うじゃねぇッッ!!どこで覚えたんだ!?そんな言葉!!
おい!娘、そんな事より早く屋敷の清掃を……」
「そんなの近所のオヤジが教えてくれたに決まってんじゃん!……それじゃ、オッサン。あたい、答えたから貴族と同じように<氏>使うねぇ~♬
名前は決まっているよ。あたいの名前は、しんりゅ……」
「待て待て待て!!答えたからって〈氏〉を使って良いとは言うておらんわッッ!!
しかも、この貴族邸でそんな恐ろしい事を言うでない!!貴族達に聞かれたらどうするんだ!?こっちまで巻き添いをくらって仕置きされちまうだろッ!!」
「そんなもんにビビっている暇があったら。あたいら身分の低い奴等の為に、どうしたら貴族のボンボンから仕事を貰えるか、考えたらどうなんだい!?
アンタの頭の中身が飾りじゃなければね!!」
「ーーッ!!?もう良い!クビだ!!お前クビ!!
言う事聞かん奴なんか、ここで雇う気は無いわ!!一刻も早く出てけ!!」
「なんだい、なんだい!ただ、〈氏〉をつけた名前で生きていきたい、って言っただけじゃないか!!誰もお給金を倍にしろとか、貴族様のような暮らししてみたいとか、言ってないだろ!!
さっきから馬糞みたいな顔で、ピーチクパーチク五月蝿いんだよ」
ただいま、本日の日の出が終了し。
空が黒に近い紺色がグラデーションに広がっている中。
星達が二人の男女、もとい中年の男と少女の激しい言い合いを、興味深く観ているかのように強く輝いていた。
此処、とある貴族邸の裏口にて。
周りは木々に囲まれており、お稲荷様が祀っている控えめな神社が建っていた。
ここだけ空気は澄んで清らかなのに、罵詈雑言の会話で台無しである。
ボロボロの小袖を着ていた少女は、禁句ワードを言葉にしてしまい相手の怒りに触れてしまったのか、首根っこを掴まれる。
男にズルズルと引きづられ、バランスを崩し少女の足元がふらつく。
突然、首根っこ掴まれ少女は引きづられている今。「離せよー!馬糞野郎!!」と叫ぶが掴まれている力が緩む気配無し。
寧ろ、強くなる一方だ。
それはそうだ……、雇い主に向かっての暴言を吐き捨てたのだから。
そして、成す術の無い状態で引きづられ暫くすると、止まった。だが、最悪な状況は容赦なく続く。
ーーポイ!
突然、少女の身体がーー宙に舞った。
視界一面に広がる満点の星空達。所々、強く自己主張しており美しい。
しかし、その有意義な時間は後に終わる。それは、直ぐにだ。
利き腕に雷の様な電流が鋭く走り、痛覚が広がった。次に背中、足にも。
「ーーッッ出てけぇ!!お前みたい常識ない奴は、いらんわ!二度と面を見せるな!!」
そう。彼女は、男から物理的に投げ捨てられたのだ。
歳は七、八歳くらいの少女である彼女。
痛みに堪え、ゆっくりと身体上半身を起き上がらせると前下がりの艶やかな黒髪が揺れる。
刹那、大きな瞳の猫目を自身を投げ捨てた男に鋭く視点を向けた。
そして中指のみを勢いよく立て、八重歯が見えるくらい口を素早く開ける。
「けッ!それは、こっちの言い分だよ!!馬糞野郎。アンタの髪の毛は、【本物じゃない事】を皆んなに言いふらしてやるからな!!」
「……ッ!何故、その事をッッ!?こっちへ来い!小娘!!」
突然、少女からの爆弾発言に男は焦った。だが、少女の暴言は更に続く。
「へへーんだ!じゃあな。馬糞野郎……じゃないな、貴族の犬!!特にアンタは駄犬だわ。
それに、あたいは小娘じゃねぇ!!あたいの氏は、神龍時。龍神の文字を逆さにした〈神龍〉に、時代の時で神龍時。〈神龍時 葵〉だ!歴史に名を残す女だよ。口の聞き方に気をつけな!!」
そう言い切った少女は、自身の服に付いた泥を手で払い落とす。
言いたい事を一方的に伝えて満足したのか。
目の前の相手の股間を勢いよく蹴り上げ、疾風の如く立ち去った。
後に、被害にあった男は、再起不能になったと風の噂になったらしい。
神龍時 葵。齢七、八年にて。
大人並みの語彙力持ち。
そして負けず嫌いの度が超えた、性格に難あり。
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