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4幕 天国と地獄
暗転中。
琢磨「う〜ん……う〜ん……」
3回目の「うーん」を言い終える直前に明転。
舞台奥のホリゾント幕に当る西陽は、前よりも小さくなっている。
琢磨「あーーっ! くそーっ! 分からねぇーっ!!」
大輔・隆一「琢磨!?」
隆一「気をしっかり持つんだ。な?」
琢磨「くふっ。ふひっ。へへへっ。へはははは。はーっはっはっはっは。はーーーーーっ! はぁ〜っ」
「はぁ〜っ」で大輔・隆一はズッコケる。
隆一「気持ち悪いなぁ……」
琢磨「俺、先生に聞いてくるわ……」
下手にはけていく琢磨。
大輔・隆一、課題を続ける。
隆一「こんな問題、解ける奴いんのかよ」
大輔「そうだ! 絶対何か裏があるんだ。貴明の野郎」
隆一「またそっちかよ! でも、あいつカンニングなんかするかな」
大輔「プレッシャーに押しつぶされそうになって、したんじゃねえの」
隆一「まあ、199位ってのがわかったら、親も呼び出し喰らうか」
大輔「200位になるとすげえぞ。俺なんか、爺ちゃん婆ちゃん姉ちゃんに、太郎まで呼び出しくらったもん」
隆一「なんで太郎だけ名前? 弟さんだろ?」
大輔「太郎は弟じゃない! グリーンイグアナだ」
隆一「連れて来んなよ!」
大輔「先生も困ってた」
隆一「そりゃそうだよ……」
大輔「いや〜しっかし、日本史の資料集って役に立たねえな」
隆一「何、お前資料集? これのどこに使うんだよ。素直に教科書見ろよ。それにこれ全部、授業中にやった内容だぞ」
大輔「授業? 覚えてねえ」
隆一「ノート見直せばいいだろ」
大輔「書いてない」
隆一「マジかよ。何、寝てた?」
大輔「それもある」
隆一「他にも理由あんのか?」
大輔「シャー芯の、エコ活動!」
隆一「言い訳がましい。ただのサボりだろ!」
大輔「だって、先生の字が、こう」
隆一「先生のせいにするなよ。日本史の字はまだ見やすいよ」
大輔「ぶれて見えるんだよ。俺乱視だから」
隆一「メガネ買え!」
再び課題に取り組む二人
大輔「なあ隆一」
隆一「ん〜?」
大輔「わかんないとこ飛ばしていい?」
隆一「ああ、そうだな」
大輔「なあ隆一
隆一「ん〜?」
大輔「お前のノート写させて」
隆一「ああ、そうだな」
大輔「……お前の母ちゃんデベソ」
隆一「ああ、そうだな」
大輔「……お前の妹もデベソ」
隆一「見たことあんのかよてめえ!!」
大輔「……メガネ、買わないとだめ?」
隆一「ダメ! そんなに目が悪いんじゃ、車の免許すら取れねえよ」
大輔「バイクは!?」
隆一「もちろんダメだよ」
大輔「でも問題なく乗れてるぜ」
隆一「無免許かよ!」
大輔「よし、メガネ買お」
隆一「何、免許とんのか」
大輔「将来、ハーレー乗りたい」
隆一「うわお。馬力すげえの乗るんだな。スクーターとかじゃダメなの?」
大輔「あんなのバイクじゃない。このすっとこどっこい」
隆一「……はい、すみません」
放心状態の琢磨が、下手から戻る。
琢磨「ただいま」
隆一「おう、どうした浮かない顔して」
大輔「どうした、浮かばれない顔して」
琢磨「職員室に行ったらさ、先生たちの話、聞いちゃったんだよね」
大輔「俺にバイクの免許を取らせようって話か」
琢磨「違う」
隆一「労働環境の話か」
琢磨「全然違う」
大輔「怪談話?」
琢磨「な訳ねえだろ!」
大輔「じゃあなんなんだよ!」
琢磨「貴明の事だよ!」
大輔・隆一「あ……あ〜」
大輔「なるほどね。やっぱ怪しんでたか。いきなり順位がドドドって上がったんだもん。誰だってびっくりするよ。やっぱカンニングだったんだろ?」
琢磨「違う」
大輔「え? カンニングだったんだろ!?」
琢磨「違う。違うんだよ」
大輔「何ぃ? 何が違うんだよ!」
琢磨「1組に、相原小夜って女子いるじゃん」
隆一「ああ、いるな」
大輔「しらね」
隆一「知らんのか。いつも成績上位者に名前が載ってるじゃねえかよ」
琢磨「そう。よく知ってるな。頭いいんだよ」
大輔「詳しいな隆一。その子に特別な興味でもあんのか?」
隆一「そんなんじゃねえよ。同じ中学だから。俺」
琢磨「ああ」
大輔「で? そのアイハラサヨ? がなんだって?」
琢磨「今回の期末も、学年1位だったんだけど」
BGM『日陰もの』が流れてくる。
隆一、大輔が下手側に歩いていく。
隆一「今回の期末も…か。へへっ。俺たちには縁の無い世界の話だな。へへっ」
大輔「お天道さんの当たる世界の話ですもん。所詮私ら、裏街道ですもん」
二人「すみにくい世の中でござんすねえ」
言い終えて自席に座る。
琢磨「まあ、確かに俺たちとは縁のない世界の人だ。しかし、貴明とは関わりがあったんだよ」
大輔「そんな美人と、一体なんの関係が」
琢磨「いや、美人とは言ってないけど」
大輔「い〜や、小夜って名前は美人だ」
琢磨「どうなんだ? 隆一」
隆一「う〜ん、そうだな。相原小夜は、例えて言うなら、子生意気な石原さとみ」
大輔・琢磨「お〜い〜!」
隆一「いや、違うか。はんなりとした、深田恭子」
大輔・琢磨「お〜い〜!」
隆一「いや、これも違う。溌剌とした、上戸彩」
大輔・琢磨「お〜〜い〜?」
大輔「待て、その3人だとイメージしずらい」
隆一「ギクシャクとした、綾戸智恵」
大輔、琢磨。ずっこける。
大輔「おばはんやないかい!」
琢磨「ホンマに知っとんのか相原小夜!」
隆一「とにかく、その相原がどうしたんだよ」
琢磨「貴明、その相原と付き合ってるんだ」
大輔・隆一、片腹を抱えてうずくまる。
琢磨「ど、どうした」
大輔「き。急に腹が」
琢磨「まさか、二人同時に、盲腸!?」
隆一「あまりのことに、片腹が痛くなって、な?」
大輔・隆一「はっはっはっはっは!!!」
大輔「待て待て。はい? 付き合ってる? 貴明が?」
琢磨「うん」
隆一「否定しないんかい」
琢磨「うん」
隆一「これは夢だ、でなけりゃタチの悪い冗談だ」
大輔「勘違い」
大輔・隆一「でなけりゃ琢磨の聞き違〜い」
ひとしきり笑うと、いきなりキリッとして
大輔「一体貴明とどこに接点が!!」
隆一「そうだ、いつも俺たちと一緒にいたはずなのに、いつの間に、あっちの世界の、しかも女性と、その、ねんごろになっていたのか!」
琢磨「まあ、はたから付き合って見えてるだけで、本人たちにはそのつもりはないのかもしれないけど」
大輔「わかったぞ!」
隆一「なんだ!」
大輔「貴明の奴、いつか俺たちの誘い断って、図書室に行くって話あったじゃん」
琢磨「あった」
隆一「レポート出されてたんだよな。確かあれも日本史だった。それが?」
大輔「出逢っちまったんだよ。放課後の、図書室で!」
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