君を想う時

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不意に目に留まる黒い線 すぐに 消そうとしなかったのは どこか愛おしくて 不器用な自分たちの 残りのようだったから 膝をついて そっと線をなぞる 消えてしまわないように 指先から溢れた 君のなまえ 君のこえ わらいごえ 視線をずらすと 細かい黒い線が たくさんみえた 膝をつくほど 目を見はらなければ 見えなかった小さなものが 幾重にも重なって 白い世界の中にある 誰かにしたら はやく綺麗にしなさいって 消し去ってしまいなよって そんなものだとして ふれた先から涙と あたたかい記憶が蘇る あなたの隣で 笑っていた日々が 当たり前じゃなくて 今だからこそ きっとこれからだって これは傷なんかじゃない 桜の花びらが舞うころ 空の下で大輪の花火を背に 手を伸ばす君がまだいる 雨音がする夜も 煌めく階段をのぼって いつも振り返っては 笑って待っていてくれた 過去になっていくのは 仕方がなくて 時間が過ぎるほどに 君が愛おしいと ただただ 日常で気付かされていく 君が忘れた過去も わたしが忘れた過去も いつか もちよって また笑いあって その時は また違う音色を奏でながら 君を想っていけるのに こんな今の気持ちでさえ 時計の針はとまらず 過ぎていくけれど どんな彩の線だって なんだって 君といた確かな時間だから この世界で いつかまた 君の名前をよばせてよ 呆れたように 待ちくたびれたように それでも振り返ってくれる君に 今度はしっかり その手を繋ぐから 大切な心を 息を吹き返すような まなざしをくれたこと 愛おしく想ってくれたこと たくさん名前をよんでくれて わたしの名前は 君によばれたくて 今日もいつかに 続く線をみながら あなたに向かう道を探している
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