1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
努力をしても、思ったほど女子に近づけなかった。
だから、逆に遠ざかることにした。
私が女子になる、近づくだなんて、無理なんだろうなって思った。
そりゃあさ、諦めちゃ駄目だってことくらいわかってた。知ってた。嫌なくらい。
小学生でも、中学生でも、社会人でも。
誰でも、いつでも学べるじゃん。
物語文とか、説明文とか、小説とか、漫画とか。
アニメとか、映画とか、経験とか。
なんでも"諦め"が1番良くないことだって学べる。
――でもさ、わかってても無理だった。無理だったんだよ。無理なんだよ。
「諦め」以外の選択肢を選ぶことなんて、女子になることよりも、何倍も何十倍も難しかった。
今までの人生で経験と感情を積み上げて、つくってきた自分を、今までとは何もかもが真逆の存在にすることなんて、こんな『普通』じゃない私にはできない。できやしない。
全員、同じ"ただの個性がない女の子"ってスタートラインから走り始めたはずなのに、私はどこでコースを間違えたんだろう。どこで他の選手やコースを見失ったんだろう。
気付いたときには手遅れだった。目の前から他の選手が走ってきて、時間がとまったみたいに動かなくなった私の横を見向きもせずに通りすぎていく。後ろから、選手同士で楽しそうに話している声がする。明るくて、可愛くて、少し聞いただけで女の子、女子、女性だとわかるような声が――。
今更スタートラインを探して、見つけたとしても、手遅れすぎる。さっきの選手の姿はもうそこにはないのだから。少なくとも、彼女たちは二周目を走っている。
今から走り出せる気力も勇気もなかった。
ゆっくりと後ずさりして、方向を変え、さっき歩いていた場所よりも、もっとゴールに遠いところへ向かう。
これ以上の努力はしたくない。
最初のコメントを投稿しよう!