いつから、そこに居るのか

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翌日 私は昨日の事を思い出していた ⋯もちろん勇者の話していたことだ (あそこまで強いと何か裏があると思っていたが…) 理解はしたが納得はしてない わざわざ自分の死期を早める可能性がある事を許容出来るわけが無い 身の丈に合う と言う言葉がある 手が届く範囲と届かない範囲だと私は思っている 勇者が成したことはその範囲外だということ (人類の為に身の丈に合わない強さを得た愚か者) だが、そのおかげで人類は平穏な日常を送っている たった1人の犠牲の上にある理想郷 言い換えれば凄く聞こえは良い だが、その犠牲になった者が身近な存在かどうかはこの理想郷を見ればだいたい分かる 大半の者が勇者を一方的に知っているだけで 私たちのように旅をした訳でも寝食を共にした訳でもない 勝手に応援して、勝手に今の理想郷にあぐらをかいている 許せない… 許せるはずがない…… イライラしながら歩いていると 昨日の城門に居た 思い出すだけで腸が煮えくり返りそうになる 遊び感覚で魔族との戦いを見物している者 その人間たちを優先的に守った兵士 正直なところ人間が数人死のうが、勇者が生き残った方が人類の為である 当たり前だ使えもしない武器を持った一般人より戦闘経験豊富な勇者が生きていた方が今後魔王の残党と戦うことになっても有利に事が動く (私の考えは合理的すぎるのか…) はたまた大切な人間が死んで欲しくないという感情なのか… 分からない… (ん?なんだあれは?) 目を細める 城門よりも遥か向こうの森に砂煙が登っている 何かがものすごい速さで動いている… そう思った瞬間血の気が引いた (まずい…昨日雑魚どもを生かして返したのは愚策だったか!) 最悪雑魚どもが上位の魔族に報告したとなれば 魔族は動く しかも今勇者は使い物にならない そんな情報まで伝われば終わりだ ここは戦地となる (勇者をここに連れてきたらダメだ) そう思い振り返る 「ディア?どうしたんだい? そんな怖い顔して」 (最悪だ) 振り返ると勇者が居た 歩けているが戦えるか分からない…… いや、戦えないだろう 「勇者、ソフィーを連れてきてくれないか? それと、お前はしばらくここに近づくな」 分かってない顔をした勇者に背を向け、私は城門を抜ける 王都付近で戦闘が始まれば必ず勇者は駆けつけてくる 雑魚ばかりなら良い だが、昨日の今日だ雑魚ばかりなんて有り得ないと断言していいだろう 城門から離れた地点で待ち伏せる 「本当に居るじゃん」 魔族が喋る 相手が悪すぎる 「久しぶりだねエゲル、元気にしてた?」 エゲル…こいつはやばい 魔王に忠誠を誓い、悪逆非道を平然とやってのける奴 そこまでは良い魔族だそんなものだ 問題は強さ こいつの強さは推定だが私の2倍 全盛期の勇者パーティーなら余裕だろう だが今の勇者パーティーでは無理だ なにせ、私が1番強いのである 「それにしても変だな〜 なんでディアが此処に居るの? とうの昔に死んだと思ってたのに」 私が勇者にちょっかいを掛けに行ったのは魔王からの命令、そこから1回も魔王陣営に顔を出してないから死んだと思われていたのだろう 「いや〜1回死にかけてコソコソ隠れてたん だよね〜 ところで今日はどうしたの? 魔王様居なくなっちゃったらしいじゃん?」 「は?」 突然エゲルから、有り得ない量の魔力が吹き出す エゲルが連れていた魔物は消滅 中位の魔族がギリ消滅を免れている そう、強すぎて味方諸共殺してしまうのがエゲルなのだ (ミスった) 話し合いで終わらせるつもりだったのだが どうやら地雷を踏んでしまったらしい 「あの御方は、まだ我々の心の中で生きて おられる…いつか来る復活の時に向けて 人間共を皆殺しにするのだ… だからディア、一緒にあそこの王都? とやらを攻めないか? 聞いた話では勇者は今、使い物にならない らしいじゃないか あぁ、魔王様私は今から勇者の首を貴方 の前に捧げます どうか、我らを見守ってくださいませ」 ダメだ、最初から話しなんて出来ない こいつ、魔王が死んで頭がイカれてる 魔王が死んだ時、塵になっていた 魔物、魔族問わず、塵になったら生き返ることは無い 塵になる前ならまだ手のつくしようはあるが 塵になったら無理だ つまり生き返らない、こいつはその事から目を逸らしている (どうする…勝てる相手じゃない) そんなことを考えてると…… 「ディア!」 聞き覚えのある、愛しい声が聞こえてきた… 「ダメだ!勇者こっちに来るんじゃない!」 「は?お前まさか勇者とグルだったのか?」 終わりだ… エゲルにバレた さっきとは比べ物にならない量の魔力を出している 中位の魔族までもが塵になり 残るはエゲルのみ… それでも戦力差が縮まらない 「この20年間何をしていたかと思えば 勇者と仲良しこよしだったとはな! 殺す!全員殺してやる!」 そう言うと一振剣を振った
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