いつから、そこに居るのか

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あれから数日ディアは飲食もせずブラブラと街を歩いては寝るという生活を続けていた 王都を歩いていて声をかけられることは無い 魔王を討伐した勇者のパーティーには魔族が居たと公表されていないからである じゃーディアはどのような立ち位置に居たかと言うと 各魔族、魔物の弱点を教える及び勇者が手一杯の時に戦闘に参加するといういわば予備戦力としてパーティーに加わっていた 魔王側、人間側どちらにも魔族が人間側に手を貸しているということが公になるのは都合が悪いのである 魔王が力をつける前の勇者を殺せば人類の希望が無くなり 魔族を味方に引き入れた勇者を人間側が許すはずも無い 火を見るより明らかである そんな訳で、歓声に包まれることも無く 罵られることも無い普通の日々を送れている 一方勇者達は 街を歩けばあちこちから声をかけられ 衣食住は基本無料 不自由の無い生活をしていた (あんな人に囲まれて心休まる時等無さそうだがあれはあれで良い物なのだろうか) そんな事をぼんやり考えて歩いていると 王都の城壁の向こう側が何やら騒がしい (ちょっと覗いてみるか) 城壁の上に飛び乗り、真下を見下ろす 勇者パーティーと魔王の残党が戦っていた のだが (妙に押されてないか?) 相手は魔族の中位が2体と魔物が30匹前後 ディア1人でもなんとかなるレベルの相手である そもそも、城壁付近に魔族が来ること自体が珍しいのだが、今までの戦闘を考えると鼻歌交じりに敵を倒していてもおかしくは無いのである (なぜだ?手を抜いているようには見えない) じっくりと観察した 今まで、と言う過去を切り捨て、初めて見る目線で解析した 分かった⋯いや、気づいてしまった 原因は勇者だ ろくに動けていない 戦闘が久しぶりで鈍った等というようなレベルでは無い 明らかにステータスが落ちている 数値は見えないが、動きで分かる 敵の攻撃を捌くのもギリギリ間に合うか間に合わないか そんな勇者を庇いながら戦っているからパーティー全体のテンポが悪い (チッ、あのバカ) 傍観すると謳って居たディアだが、流石に勇者パーティーとなれば話は違う、彼らとは旅の中で笑い合った仲である 見て見ぬふり等出来ない 城壁から降り中位の魔族を殺す 容易い事だ なぜこんな奴に手を焼いている そもそも王都の兵士達はどうした? と思い城門の方をチラッと見ると 城門の扉に市民が集まっている それらの避難を呼びかけるために兵士達は手を焼いているようだが 市民が動こうとしない と言うより人が増えている (馬鹿どもめお前たちのせいで勇者達は戦えてないんだぞ!) 私の登場にざわめいているが そんなことはお構い無しに敵を嬲る 「ディア貴様自分が何をしているのか分かっ ているのか?こいつらは魔王様を殺したの だぞ!」 「あー、分かってるよ、なんならここ20年は こいつらと楽しく過ごしてんだよ!」 「貴様ぁぁぁああ!」 雄叫びをあげたからといって、強くなる訳が無い 一撃、首を剣で撫でる (後は雑魚どもだが) 怯んでいる 当たり前だ中位と上位の魔族では強さが桁違い 「お前達、二度は言わん失せろ」 魔力の解放 今の今まで抑えて戦闘していた為、圧倒的な実力差をその身に刻み込ませる 魔物は飛び散るように消えた 「おい!勇者!」 駆け寄る 見たこともない顔をしている 顔が青白く、呼吸が出来ていない 手足は痙攣している 「おい!ソフィー回復魔法!」 「ディア?!わ、分かった!」 ソフィーの回復魔法は優秀だ、この身をもって経験している 「ディア、すまないかっこ悪いところ見せ ちゃったね」 「うるさい、喋るな後でゆっくり聞く」 「ありがとう」 そう言うと勇者は気を失った 次は市民に近寄る 「お前達はなぜ、邪魔をする! 私があと少し遅かったら勇者達は死んで いたかもしれないんだぞ!」 久しぶりだ頭に血が上るのは 「お前たちもだ! 市民の誘導の前に勇者達の加勢に何故入ら ない!」 次は兵士 最早八つ当たりである 分かっているだが、私の大切な仲間をわざわざ危険に晒すようなことをしたのだ、感情が抑えられないのも致し方ないと思った 「勇者の戦いを1目見たかったんだ! 別に良いじゃないか! そんな事言うならお前がもっと早く 来れば良いじゃないか!」 そうだそうだと市民 (このゴミ共が!) 怒りで魔力が溢れる 先程意図的に出した魔力では無い 抑えようにも抑えられない怒りのせいで魔力が滲み出る 「落ち着いてください! 貴方の言い分も分かるだがこのままでは 貴方も悪者になります!」 近くに居た兵士の声 漏れている魔力をなんとか収める ほっと一息をつく兵士 「すみません、我々も早く加勢に行こうと としましたが、市民を優先しろと勇者様が」 (はぁ…あのバカめ) 「それならしょうがない、私も勇者があそこ まで弱っているのは初めて見た」 だが、なぜだ? なぜ勇者はあんなにも疲弊?しているのだ? いや、疲弊なんてものじゃない ステータスが落ちている しかも、ちょっとやそっとでは無い ごっそり落ちている 私と初めて会った時を50として魔王を討伐した時が100とするなら今は2〜3位しかない それ程までに弱くなっている (とりあえず、皆と勇者を連れて勇者を安静な場所に寝かせるか) 「おい、退け!邪魔だ勇者を運ぶ」 「ディアちゃん、勇者、大分良くなった と思う」 「ありがとう、ソフィー君の回復魔法 より信頼出来る治療法が思いつかなかった んだ」 そう言うと勇者を抱え、王都に戻る 市民が私を見る目は様々 怯え、妬み、冷やかし、嘲り つまるところ楽しみを奪われたと思っているのだろう (とことんクズだな、お前たちが居なければここまでの事態にはならなかったろうに) 内心愚痴をこぼし、勇者を運ぶ そんなことよりも確認しなければならない事がある、それは勇者が起きてからにするとしよう 数時間後 「お、目が覚めたか」 「ディア?」 「とりあえず、体調はどうだ? ソフィーに回復魔法をかけてもらったから 幾分マシなはずだ」 「うん、大分楽になった 後でソフィーにお礼言わなきゃね ⋯ありがとう、ディア あのままだと、僕だけじゃなく皆まで死ん でいたかもしれない」 「その事なんだが お前弱くなってないか?しかもちょっと どころではなく、かなり弱くなってない か?」 目を大きくする勇者 「分かるのかい?」 「当たり前だ、初めて会った時のお前の方が デタラメに強かったぞ 何があった?」 少しの沈黙の後勇者は話し始めた
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