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絶好のサッカー観戦日和!?
翌朝。
「おはようございまーす!」
我がチームがホームグラウンドにしている陸上競技場、正面玄関のあたりから元気な声が聞こえてきた。競技場の職員の方々にあいさつ、クラブチームのトランポも到着、スタッフたちも顔を揃え、試合への準備が始まる。
クラブスタッフの自分は、連絡用の無線を持ち歩くので、いつものようにセッティングしていると……
「じんさーん、じんのうちさーん!」
自分を呼ぶ声が聞こえる。どこからだ?と、きょろきょろと探してみると、トランポのトラックの荷台からの声。あ、佐々木さん、荷物に圧し潰されそうになってる!慌てて駆け寄って、崩れ落ちそうな荷物を抱え直した。
「自分が持てる分だけにしなさいって……無理すると、怪我するよ?」
「は、はい……」
広報部の佐々木さんは、昨年、社員としてやってきた女性だ。
「ほら、これで持っていけるかな」
「ありがとうございます!」
元気でハキハキした受け答えの印象がある佐々木さん。長い黒髪を纏めて、足元はスポーツシューズ、スタッフ証もしっかり見えるが動きの邪魔にならないように配慮している。全体的に動きやすいスタイル。そういう自分も、とにかく動きやすさを重視。試合当日は、ひたすら動き回るからだ。
周囲のスタッフたちにあいさつしながら、競技場の中……はじっこを横切り、そのままバックスタンドの真下から反対側の外周へと向かう。
ボランティアスタッフのみなさんも、すでに仕事を開始してくれている。彼ら・彼女たちは、縁の下の力持ち。自分たち社員では、手が廻らないところを助けてくれる頼もしい「仲間」だ。うちのような、決して大きくはない、人も多くはないクラブチームにとって、ボランティアスタッフのみなさんは、本当にありがたい存在である。
「おはようございまーす!」
「あー、ジンさん、おはようございます!今日もよろしくお願いします!」
「おはよーっす!」
スタンドの真下をくぐり、反対側の外周へ出ると、ボランティアスタッフにまじって、見覚えのあるひとりがテントやらテーブルやらを設置しているのが見えた。
「高幡さん」
「おう、おはよう」
同じグッズ販売担当の高幡さんだ。
「ジンさん、こっち頼むわ」
「わかりました」
交わす言葉は少ないけれど、互いに何を言いたいのかはわかっている。この「阿吽の呼吸」っぽいものを得るのには、さすがに時間がかかったけれど、一度、互いのペースなどを把握すると、意外と早く理解できるものだ。
傍らにあった車両から、たくさんのケースを下ろして、番号を確認しながら並べていく。販売を受け持ってくれるのは、契約している会社のアルバイトさんや派遣さんたちだ。
風もないし、天気予報も変わらず。ならば、テントを出しても大丈夫だろう。と、いうわけで、チームカラーのテントを組み立てて、しっかりと足場を固定させる。
「おーい、こっちにひとつ!」
「はい!」
テキパキとこなしていく間にも、試合開始時間まで待ちきれないサポーターたちが徐々に集まってきた。にぎやかになっていく競技場周辺、この空気が、自分は好きだ。
ある程度の準備が整い、販売担当のアルバイトさんたちがやってきて、さらにいつのまにか戻ってきていた高幡さんが、会計関係であれこれレクチャーしている。
ふと、空を見上げると、スカッと青空が広がっていた。
気持ちいいな。今日は、暑くもなく寒くもないだろう、まさにサッカー観戦日和ではなかろうか。
そして、本日の目玉!新グッズが入った箱を開封。新しくデザインしたストラップ、タオルハンカチ、背番号入りマフラータオル……
早速、サポーターさんたちが見つけて近づいてきてくれる。
「あー!これ、新しいマフラータオル!」
「背番号入りだ!これはうれしいな」
お、いい反応が来た。準備をしながら、
「グッズ販売は11時からなので、もう少し待っていてくださいね。それまでは、どれを購入しようか、ぜひ考えていてください!」
と声をかけると、みなさん、笑いながら頷いてくれた。
うちのチームのサポさんたちは、ホント、穏やかな人が多いなぁと、あらためて思う。
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