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戦争のない世界
最近、毎日不思議な夢を見る。
夢の中での私は戦時下で働く看護師で、軍の兵士である男性に恋をしている。
だけど彼は戦いで命を落としてしまい、その後を追って私も命を絶つ、という夢だ。
夢とはいえ、自分が死ぬなんてあまり良い心地ではないし、それが毎日とあればもういい加減頭がおかしくなりそうだ。
だけど、夢の中で男性と過ごしている時間はとても幸せに感じる。夢から覚めると彼のことが好きという気持ちはなくなってしまうけれど、夢の中の私は確かに彼に恋をしているのだろう。
「私、彼氏いるんだけどな」
複雑な気持ちを抱えながら、気晴らしに外に出る。何となく街中を歩いていれば夢のこともだんだん忘れてくるから。
でも、今日は違った。
ある男性とすれ違う。その瞬間、頭にノイズのようなものが走った。
思わず振り返ると、その男性もギョッとした顔でこちらを見ていた。
彼の顔を見ると、また頭にノイズが走る。
あの夢が一気に頭の中を駆け巡って、
あの夢で見たもの全てが、私の記憶として蘇った。
「「……近くのカフェでお話ししませんか?」」
窓際の席で、貴方と見つめ合う。
「貴方ともう一度会えるなんて……、ね」
「本当にびっくりです」
あの頃と何も変わらない姿で、貴方は私の目の前にいる。
「貴女とまた会えて、本当に嬉しいです。貴女のことを、毎日夢で見ていたくらいですから。
……でも、今の俺には好きな人がいるんです。あの頃の俺とは、違うんです」
「そう……、一緒ですね。私も、好きな人がいます。私もあの頃とは違う。
……でも貴方のことは、きっと一生忘れないと思います」
「俺も、一生忘れないです。
……そろそろ出ましょうか。お金は俺が出します」
「じゃあ、お願いします。……さようなら」
「さようなら」
あの頃は、あんなにも貴方に会いたくてしかたがなかったのに、驚くほど別れはあっさりだった。
思えば、あの時私は「もう一度会いたい」と願っただけで、「結ばれたい」と願ったわけじゃなかった。
神様というのは良くも悪くも、願いに忠実なのかもしれない。
きっともう、あの夢を見ることはないだろう。
あの頃の私たちには申し訳ないけれど、これで良かったのだと思う。
だって私たちは、もう一度会えたのだから。
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