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ある男の恋
戦場に立つ貴女に恋をした。
傷を負った軍人を、いつも優しい笑顔で手当している貴女は、本当に天使のようだった。
戦いが終わり、貴女に手当をしてもらう。
「国のために命をかけて戦う貴方はとてもすごいです。私は、傷の手当くらいしか出来ないので」
微笑みながら、貴女はそう言う。
貴女はいつも自分を卑下するけれど、俺は貴女の笑顔に救われている。貴女が俺を待っていてくれると考えるだけで、どれだけ心強いことか。
貴女の笑顔を守るために、俺は絶対戦いに勝たなくてはならない。
「必ず、勝って戻ってきてくださいね。どんなに大きな怪我をしても、私が治しますから。絶対に生きて戻ってきてください。約束、ですからね」
にっこり笑って、貴女は俺を送り出してくれた。
覚悟はしていたけれど、それ以上に過酷な戦いだった。
戦いが長引けば長引くほど戦力も落ちる。当たり前だ、だから一刻も早く決着をつけたいのだが、そう簡単にいくものではない。
皆、疲弊しきってどんどん倒れていく。だがそれは敵軍の者も同じだ。
体が思うように動かなくなってきた。 それでも戦わなければいけない。
少しでも多くの敵を倒して、前に進まなくてはならない。
この戦争に勝つために。
そして、俺の帰りを待っていてくれる貴女のために。
敵将を討てば、向こうは降伏せざるを得ない。 だからせめてそれまでは、意地でも戦わなければ。
そう自分を奮い立たせた瞬間、体に鋭い痛みが走った。
自分の腹から剣の先が飛び出している。後ろから刺されたのか。
剣が抜かれた途端に倒れそうになるのを必死で耐えて、相手に槍を突き刺す。
もう限界だった。力が抜け、その場に倒れ込む。
まだ俺は倒れちゃいけないのに。貴女が俺を待ってくれているのに。
立とうとしても、もう指一本も動かない。
ごめんなさい、絶対に勝って戻ってくると言ったのに。
約束、したのに。
もう貴女の元には帰れない。
この戦争が終わったら、貴女に俺の想いを伝えようと思っていた。
この戦争が終わったら、幸せな人生を貴女の隣で歩みたいと思っていた。
貴女に会いたい。会いたくてしかたがない。
それなのに、こんな所で終わってしまうのか。
薄れゆく意識の中、俺は神に願った。
あまり敬虔な信徒ではなかったし、生まれ変わりなんてもの信じてはいなかった。それでも、
もしも、生まれ変われるなら。
こんな醜い世界じゃなくて、戦争なんかない平和な世界で、貴女とまた会いたいと。
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