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2.「3月」「お返し」
「俺、葉兄が好きだ」
中二に上がる春、桜並木の下で、俺は五歳年上の幼馴染に告白をした。
卒業証書が入った筒を手に、薄紅色に染まる景色の中で空を見上げていた彼は、少し驚いた顔をした後、すぐにいつもの悪戯っぽい笑顔を口元に乗せて俺に言った。
「それは敬愛? それとも『愛してる』って意味で?」
からかいを含んだ声音にムッと眉を寄せる。
それを見て、困ったような悲しいような複雑な表情を浮かべた葉が、制服の襟から臙脂色のネクタイを引き抜き、俺へと手渡した。
「じゃあ、これあげる」
意図が解らず首を傾げながらも受け取った俺に、桜に溶けるような淡い微笑で言葉を紡ぐ。
「樹が高校を卒業する時に、それでもまだ、俺のことが好きだったら……それ、返しに来て」
もちろん捨てるのも忘れるのも選択肢の一つだからな。 そう言って「じゃあな」と片手を上げて遠ざかる背中を見送って、俺の初恋は一幕を下ろしたのだと、手に残ったネクタイを胸に抱き唇を噛み締めた。
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