4.「煙草」「指」

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4.「煙草」「指」

 頬を撫でる指に残る、知らない煙草の香り。澱のように心の奥底に沈み重なる言えない言葉。  昨夜は何処に行っていたの?  誰と会っていた?  何度も言いかけては飲み込んで、見つめてまた込み上げる想いが喉を詰まらせる。  俺が何も聞かないから、貴方も何も言わない。  静寂を壊すようにグラスの氷が崩れ、繊細な音が波紋のように広がるのを合図に、二人の境目が溶けて混ざり合って、心が悲鳴をあげながらも貴方の熱を乞い願う。  苦い残り香を纏ったまま重なる唇に、抗うすべもなく流され揺蕩い、俺はまたひとり、深く昏い闇に堕ちてゆくのだ。 何度浮気されても最後にはここに戻って来てくれるなら…。な話。 (#創作BL版深夜の60分一本勝負)
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