事の始まり

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事の始まり

 話をしようと思う。隣の家に住む朝陽(あさひ)くんについてだ。  朝陽くんは、いつでもどこでも人気者だった。  当然だ。優しくて、かっこよくて、頭もよくて運動神経もいい。  作文や絵画コンクールでもたくさんの賞を取っていたし、部活でも大活躍していた。  数え切れないくらいの女の子に告白されて、数え切れないくらいの友達がいた。  朝陽くんは完璧だった。(ほころ)びなんて一つも見当たらない、僕の唯一無二の幼なじみだった。  そんな朝陽くんが、誰にでも愛される朝陽くんが、どうして僕に告白をしているのだろう。 「好きです、真月(まつき)。俺と付き合ってください」  顔を真っ赤にして、差し出された手は震えていた。  これを冗談だと笑い飛ばせる人は、きっと人間ではない。だけどこれをあっさりと受け入れる人もまた、人間ではない気がした。  僕は人間であった。それだけだ。 「ごめん、朝陽くん。僕、君とは付き合えないよ。あんまりに不釣り合いだ」  翌日、朝陽くんは髪を金髪に染めてきた。  今まで校則破りなんて一度もしたことがなかった彼が、髪を染め、ピアスを開け、上靴の踵を踏んで登校してきた。  寄ってくるクラスメイトを一蹴し、好意を伝える女の子には唾を吐いた。テストの成績が下がり、授業をサボるようになった。  ああ朝陽くん、朝陽くん。君はなんて極端な男なんだ。 「俺と付き合えよ」  そして僕もまた、なんて単純な男なんだ。 「よろしくお願いします」  今度は迷わず、右手を握り返せた。
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