1章 お菓子な悩み事

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「米田社長、ありがとうございます。この会話から、社長が社員のみなさんに愛されていることが分かりました(笑)。でも、社長は真面目すぎる性格からか、外部コンサルタントのアドバイスも全部、鵜呑みにされてしまったようで、それが歪みになってしまったのではないかと推察します。でも、米田社長、お話しづらいことをここでお話いただき、ありがとうございます」 「ええ・・・面目ない」  明日香は紙の資料を片手で持ち上げ、話を続ける。 「金岡さんのご協力で、社員の方にアンケートをとっていただきました。まず、全社員のローテーションの件ですが、反対は22%、賛成は18%でした。残る60%は「部分的に賛成」という結果でした」  参加者全員が、明日香の声に意識を向けていた。やはりローテの件は、誰もが関心を持っているテーマだったのだろう。順調な流れだ、と明日香は感じた。 「部分的に賛成の方に、どうすれば良いと思うかを文章で記載いただきました。そこで一番目立った回答は「ローテしたい人のみがローテすればいい」という内容でした・・・みなさん、これについてどう思われますか?」 「それがいいよ。だって、工場に来たくない子に工場に来てもらってもしょうがないもん」  工場の主任の女性はさもありなんという表情で感想を述べる。明日香はチラリと重森工場長の様子を確認する。すると、工場長も目を閉じながら首を縦に振っていた。 「じゃあ、米田社長、この件はいちど見直しをするということでよろしいでしょうか?」 「ええ・・・、皆さんの意見も聞かずに強引に進めてしまって申し訳ない・・・」 「・・・私見ですが、上手くいかなかったことは訂正すれば良いだけなのではないかと思います」 「そうそう!今里さん、いいこと言うじゃん」  金岡さんも合いの手を入れる。 「では、もう一つのアンケート結果・・・木立エリアの運動施設建設についてですが、これは62%の社員の方が反対でした。反対の理由としては「昔から見慣れた庭園スペースがなくなるのは寂しい」「就業時間内に運動はしない」「バーベキュー大会をする場所がなくなる」などが挙げられています。みなさん、こちらに対してはどう思われますか?」 「まぁ、妥当な結果ちゃうかな?みんな忙しいけど、あの木立を散歩しながら気持ちを落ち着かせたりしとる訳やし。去年入社した新入社員なんかは、よう、あそこで打合せしとったで?」  反応したのは総務の男性だった。他の参加者もうなづいている。 「ええ・・・ですよね・・・」  社長自身も、微妙な反応を示した。 「米田社長、ではこちらの件も再検討の対象ということでよろしいでしょうか?木立のエリアはみなさんの心の拠り所でもあるようですから、その魅力はしっかり残す形でお願いしますね」  明日香はそう言いながら、重森工場長のほうへと視線を向けた。工場長にとって嫌なことは大切な思い出の場所が失われてしまうことだろう、そう明日香は推理した。その仮説が間違っていたら、この会話の流れは無意味になる。
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