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ランチ客の波も収まった15時。明日香はオフィスに戻っており、ときじく薬草珈琲店のカフェエリアでは湊君がひとり店番を務めていた。
店内の軽い清掃を終えた湊君は店の裏手に行こうと勝手口を横切ろうとしたが、その時、足元に柔らかな気配を感じる。
「え、猫?」
いつもは落ち着いている湊君も、少し驚いて思わず声を出してしまった。綺麗な白に柔らかな黒と茶が混ざった、いわゆる三毛猫だった。
「こんにちは、猫さん。どうしたの?」
身をかがめ、三毛猫と真正面から向き合う形となったのだが、その猫は動じもせずまっすぐに湊君を見つめながらニャアと鳴いた。
「もしかして、何かご相談ごとですか(笑)?・・・じゃあ、こっちにおいで」
湊君は立ち上がり、猫をオフィスのほうへと誘う。単に明日香にシェアしたかっただけだったのだが、三毛猫は素直にその後を追った。あまりにも人間っぽいその挙動が面白くて、心の中でクスクスと笑いながら、オフィスのドアをノックする。「はい、は~い」という明日香の返事を確認して、そのドアを開けた。
「店長、今日も相談者がいらっしゃいましたよ(笑)」
「ん?・・・湊君ひとりしか見えませんが」
「いや、こちらです」
そう言いながら湊君は、足元を指さす。
「あれ!猫さん~」
そう言いながら明日香は立ち上がり、猫のほうへと近づく。猫は相変わらず動じず、じっと明日香の目を見据え、ニャアと鳴いた。
「勝手口にいたんですけど、この子、人が近づいても全然、動じないんですよ」
「へぇ~。君、何か訴えようとしているの?」
猫を改めて確認する。首輪はついていない。野良の三毛猫なのかもしれない。でも、こんな風に人間に接触を試みているということは、本当に何かあるかもしれない・・・明日香はそう思った。
「ねぇ湊君、私、ちょっとだけこの子の世話をしてみるよ。今日、夕方から妹の渚ちゃんのバイト研修でしょう?どんな風に教えるか、シミュレーションしておいてよ」
「分かりました。すみません、渚の件、急なお願いで」
「いいってことよ。家でブラブラしても良いことないし。仕事して誰かの役に立って、働くことの喜びでも見つけてくれたらいいんだから」
「ありがとうございます。じゃあ、猫さん、店長にしっかりと相談するんだぞ?」
そう言って、湊君はカフェへと戻っていった。
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