2章 小さな依頼主

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「さてさて。猫さん、ちょっとそこで待っていてね」  そう言って明日香はオフィスのデスクまで駆け寄り、サボテンの入った容器の一つを手に取った。少し微笑み、すぐに猫のいる場所に戻る。 「よしよし。猫さん・・・あ、君は三毛猫っぽいから、ミーさんでいいかな?・・・で、ミーさん、私に手伝ってほしいことを教えてくれるかな」  そう明日香が問うと、改めて猫はニャーと鳴いた。 「君は、本当に人の話が分かる子なのかな?」  そう呟きながら明日香は、サボテンの入った透明な容器を自分の顔に近づける。 <ねぇ、1号ちゃん。この子、何て言ってるか分かる?> <サガしてホしいとイッてる>  サボテンはすかさずに答えを発した。 「探す・・・か。家族と離れ離れにでもなったのかな。・・・じゃあ、ミーさん。とりあえず、お家のある場所まで連れて行ってくれる?」  明日香が立ち上がると、ミーさんはゆっくり歩き始めた。  ときじく薬草珈琲店は幹線道路沿いに店を構えているのだが、店の裏手に回るとそこには静かな住宅地が広がっている。1300年前は平城京の条坊に沿って区分けされた広い敷地だったのかもしれないが、いま現在は小ぶりな住宅がズラリと並んでいる。平屋も多く空き地も所々に見える。そのため、空は広く開放感もある。  数分ほど歩き、一軒の空き家の前でミーさんは立ち止まった。明日香のほうを向いてニャーと鳴く。 「お、着いたの?」  明日香がついてきていることを確認すると、ミーさんは空き家の敷地内に立ち入り、玄関の右手にある床下換気口へと入っていった。明日香が換気口に近づくと、小さくか細い生き物の声がいくつも聞こえてくる。 「あ、赤ちゃんたちだ。・・・可愛いねぇ。ミーさん、お母さんだったんだねぇ」  少しして、その換気口からミーさんが顔を出した。そして、さっきと同じような真剣な眼差しでニャーと鳴いた。その表情を見ると、まだ、問題は解決していないようだった。 <ねぇ、1号ちゃん、今のは何て言ったの?> <サガしてホしいとイッてる>  えっと・・・あ、そういうことか。子供が恐らく一人、いや一匹か。いなくなっちゃったんだろう。明日香はようやく、状況を理解できたと思った。 「オッケー、ミーさん。子供がいなくなっちゃったんだね?探してきてあげるから、しばらく待っていてね。こういったことは、このサボ1号ちゃんが得意なんだよ」  明日香がそう告げるとミーさんはニャーと鳴いて、換気口の暗闇へと消えた。
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