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ミーさんは、数日おきの夕方ごろ、店に立ち寄るようになった。裏の勝手口の近くで待っていて、店員の誰かが見つけると残り物の食材を分け与えるという流れだ。ミーさんも振舞い方を心得ていて、決して店内には立ち入ってこなかった。
母親ネコとしての仕事を頑張っているんだろうな・・・ミーさんの姿を見かけると、渚はそんなことを考えるようになった。渚自身はミーさんの子猫たちに会ったことはないが、ミーさんが家族みんなで楽しそうに食事をしているイメージが頭に浮かんでくる。そして同時に、自分は仕事に楽しさややりがいを見つけられるのだろうかと思いを巡らしてしまう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
金曜日、15時。客数の少ないその時間に、男性客がひとり店を訪れた。
Tシャツにジャケット、そんなラフな出で立ちではあるが、眼光は鋭く独特の人を近づかせないような雰囲気を持っている。30代の半ばだろうか。接客のために渚は店の入り口に向かったが、その男性のオーラに少し気圧されてしまった。
「いらっしゃいませ・・・おひとり様でいらっしゃいますか?」
「うん。そっちの席、座っていいかな?」
「あ、はい。大丈夫です」
男性が指さしたのは最も端にあるこじんまりとした席だった。歩きながら渚に注文を伝える。
「クロモジ珈琲、お願いね」
「クロモジ珈琲ですね。承りました」
席に座ったかと思えば、男性は腕を組みながら窓の外の風景に視線を移した。
渚は会釈してからキッチンに戻り、その日の担当である朱里に注文を通した。同時に、男性客について自分が感じたことを小声でシェアする。
「あの、朱里さん。そのクロモジ珈琲のお客さん、なんかすごいオーラを発していたんですよ。もしかしたら、すごい人がいらっしゃったのかも。・・・でも、慣れた感じだったから常連さんなのかなぁ」
「え、誰だろう」
朱里は少し首を伸ばし、男性客を確認。そしてすぐに、笑顔を見せる。
「あちら、坂本さん。シクロミルという会社の社長をされているんだけど、うちによく来てくれる人です」
「そうなんですね・・・道理で」
渚は納得したような表情を見せる。
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