1章 お菓子な悩み事

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 帰りの車の中。ひと仕事を終えた明日香は窓の外を眺めながら頭の中をからっぽにしているところだ。 「明日香さん。今日はどうでした?」 「どうって?」  朱里の突然の質問に、明日香が聞き返す。 「お客さんの手応えとか」 「そうねぇ。今日のマダムたちは、たくさんある楽しみ事の一つとして今日の講座を受けられたんだろうから、あんまり覚えてはくれてないだろうなぁ。まぁ、自分に合う薬草茶を何か一つでも覚えてくれてたらいいんだけど」 「ですよねぇ。・・・あ、そういえば、今日はサボちゃんは持ってきてないのですか?」  朱里は運転中ということで前を向きながらも、目を輝かせながら質問を重ねる。 「もちろん、持ってきてるよ~」  明日香はバッグの中から透明のタマゴ型容器に入った小さなサボテンを取り出した。 「今日みたいな日は、サボ2号ですよね?だんだん分かるようになってきましたよ」 「正解。サボ2号。みなさん温和な方々だったから使わなかったけどね。な、2号ちゃん~」  そう言いながら明日香は、サボテンが中に入った透明な容器を手のひらの上で愛でた。  「明日香さんって、本当によく植物に声をかけますよね?」 「まぁね・・・」 <本当に、植物と会話ができるんだけどね>  そう心の中で呟きながらも、明日香は会話からフェードアウトした。これはどうせ、誰に話をしても信じてもらえない、自分と母だけが持つ秘密の能力。  明日香の母は単に会話の相手として植物と接していただけだが、明日香はより積極的にその能力を使うことに決めた。その一つが、このサボテンだ。  明日香によるトレーニングの成果もあって、サボ2号は「その場にいる人々の感情を温和にする」という能力を持つようになった。本日に限っては、その能力を発揮する必要はなかったのだけれども。
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