1章 お菓子な悩み事

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「ははは、今里さんって変わってるね!」  金岡ヒカルという女性は、明日香が来社した経緯を聞いて大笑いした。 「・・・でもさ、工場長ってこう見えて頑固でしょう?もう、辞めるって言って聞かなくてさ。今里さんも、もっと強く説得してよ~」 「いえいえ(笑)。私はみんなが幸せになれる方法を探っているんで」 「へぇ~、そうなんだ。ってことは、私みたいに「辞めないで」って言うだけじゃだめなの?」 「まぁ、そんなところです」  二人の会話を聞きながら、工場長は立ち上がった。 「じゃあ、後は若い人たちで仲良くやっておいてよ。そうそう、ヒカルちゃん、開発の件、あとでよろしく」 「うん、16時あたりに工場に行きますわ!」  そうして重森工場長は工場へと戻っていった。 「お二人は仲がいいんですか?」 「まぁね、大先輩と仲がいいというのもおこがましいんだけど。・・・私は米田製菓の商品企画を担当しているんだけど、新商品開発の後半戦は工場長と二人三脚で進めるからねぇ。工場長が辞めるとなると、正直、私も不安だよ」 「なるほど、そうなんだ」 「・・・あのさ、今里さんと星野さん、よかったら違うところで会話しません?この応接室Bはなんだか暗くて好きじゃないんだよね」 「じゃあ、続きは金岡さんのお好きな場所で(笑)」  金岡さんの提案で3人は会話する場所を変えることとした。  ガラスの扉をスッと押すと、広めのオフィスが視界に広がる。 「みなさ~ん、お客様です~」  20名程だろうか。机のPCから顔を上げて、明日香たちに会釈をした。 「企画だけじゃなくて、総務も調達も、みんなここで仲良くやってま~す」  金岡さんは歩きながら、オフィスを説明する。 「で、ここが私のデスク。いま重森さんと量産計画を立てているマル秘の新商品・・・そうそう、うちの会社って奈良の素材で面白いお菓子を作りたいってのがコンセプトなんで、この新商品も吉野葛を使った子供向けの商品なんだけどね」  そして三人は、オフィス内にあるカフェスペースに落ち着いた。広いガラス窓を通して遠くの山々が目に入ってくる。 「素敵な見晴らしですね」 「でしょう?まさに、奈良らしい美観。あ・・・ちょっと下を見てみて。あの駐車場横の広い敷地にも綺麗な木立が並んでいるでしょう?・・・でも、なんか来年あたりに一部を更地にして、社員用の運動施設か何かを作るらしいよ?」 「そうなんですか、なんかもったいないですね」 「でしょう?・・・なんか、社長さん、空回りしちゃってさ・・・」 「どういうことですか?」  もう一つの核心に迫る感じがしたので、明日香は興味を示す。 「先代の社長はオレについてこい系の社長だったんだけど、今の社長はそんなタマじゃないのに頑張っちゃってさ・・・」 「その運動施設も?」 「そうそう。何か社長としてやってる感を出したいのは分かるけど、ローテの件も、なんか、空回りしてるっていうか、ね・・・」 「米田さんにピッタリの社長のスタイルがあるのかもしれないけど、まだ見つけられていないっていう感じなんでしょうかね」 「かもね~。重森さんもあの木立ちで、よくお弁当食べてたんだけどなぁ」  少し、見えてきた。明日香はそう思った。 「あの、金岡さん。重森さんは今の仕事のこと続けたいと思っていると思います?」 「絶対、続けたいと思ってるよ~。今回の新商品の件も相談しに行ったらノリノリで相談を受けてくれたもん。あの人、めちゃめちゃ仕事、楽しんでるよ?」 「ねぇ、金岡さん。重森さんを辞めさせないために、協力していただきたいことが出来るかも。その時は、ちょっとお願いしてもいい?」 「もちろんだよ。・・・ってことは、今里さん、何か妙策を思いついたの?」  明日香は首を横に振りながら、しかし、笑顔でそれに応えた。 「うん、また、カフェにも遊びに行くから、色々とお話しようよ」 「ぜひぜひ(笑)」
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