1人が本棚に入れています
本棚に追加
春、私は新たな気分で高校生活を送っていた。背伸びをせずに選んだそこで私は成績上位集団の一人となっていた。
それは梅雨も明けて一学期の期末試験を間近に控えた初夏のある日のことだった、私の席に一人の女子生徒がやって来た。名は何と言ったか、同じクラスなのに彼女と会話したのはそのときが初めてだった。
「あのさ、お願いがあるんだけど……」
彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべながら数学を教えて欲しいと言ってきた。
私は彼女を見上げる。
まるでパーマが解けかかったような緩いウェーブを描くショートヘアは脱色でもしたかのような赤茶色で特にその先端部分はオレンジ色に近かった。よい返事を期待する明るい茶色の瞳と浅黒い顔にそばかす、それが一見するとヤンキー少女のように見える彼女に明るいあどけなさを感じさせていた。
人に教えることで自分の理解も深めることができる。そう考えた私は彼女の願いを二つ返事で快諾した。それから試験までの数日間、私たちは毎日放課後の教室で試験対策と称して数学を復習した。
日を追うごとに私は彼女と二人で勉強すること、いや二人で過ごすことに安らぎを感じるようになっていった。そして試験は終わった。もうこれで彼女と放課後を過ごすことはないのだろう。
「ねえ、試験の打ち上げしよ」
彼女のそんな言葉に誘われて放課後に二人で向かったファストフード店、それは私にとって生まれて初めて経験する「デート」というものだったのかも知れない。ぎこちない私を前にして、バニラ味のシェイクを手にした彼女の口から出た言葉は予想外だったが、しかしとてもうれしい一言だった。
「これからも勉強教えて欲しいな」
そのときの胸のときめきを私は今でもハッキリと覚えている。その店で何を注文したのかは忘れてしまったが目の前で無邪気に微笑む彼女の顔は今でも私の脳裏にしっかりと焼き付いている。
最初のコメントを投稿しよう!