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それからの毎日、ター子は部屋着の下に必ず水着を着けてくれていた。最初はおっかなびっくりだった私も彼女の腰に手を回して密着し合うようになるまでにそう時間はかからなかった。
滑らかな曲線を描く腰のラインに手を当てると水の抵抗を逃がすためのステッチが指先に触れる。そのラインをなぞるように指を滑らせて、そのままわき腹に軌道を変えると締まったながらも柔らかい肉感を覆う化学繊維の独特のなめらかな質感を感じることができる。そのまま指先を戻してステッチの反対側をなぞっていくと大きく開いた背中の筋肉を感じることができた。
そのあたりに敏感なポイントがあるのだろう、そのときター子は身体を一瞬ビクッと震わせると少し息が荒くなるのだった。
やがては私も下着一枚になって水着姿の彼女に身を委ねるようになる。そのうちどちらともなく自然に唇を重ね合わせるようになったが、それ以上の関係に進むことはなかった。
下階では彼女の母親が眠っているのだ、それが歯止めになっていただろうし、しかしなにより私たち二人はこうして密着して触れ合うだけで十分に満足していた。
いや、正直に告白しよう。少なくともあのときの私はそれ以上の関係に進むことでのめり込んで行くことに怖さを感じていた、すなわち一線を越えるだけの度胸がなかったのだ。
高校一年の夏休み、私にとっての想い出は、ター子と過ごしたそんなぎこちなくも甘酸っぱい日々だった。
それは八月のまだ暑い盛り、世間ではお盆休みを前にして皆が忙しなく汗をかいている頃のことだった。いつものようにター子の家を訪れたとき、店の入口に夏季休業の張り紙を見つけた。彼女の母親が書いたのだろう、カレンダーか何かの裏にサインペンで一週間の休業が記されていた。
私は黒いドアを静かにノックすると彼女の返事を待たずにドアノブをひねった。パジャマ代わりの裾が長いシャツの下にはいつものようにター子は競泳水着を着ているのだろう。そしていつもそうするように私たちは服を脱いで互いに薄くなめらかな触感に身を委ねるのだった。
やがて彼女の母親が仕込みの買い出しに出たのを見計らって私も彼女の部屋を後にする。階段下の小さな土間に下りたとき、彼女は優しい笑みとともに静かに口を開いた。
「明日からしばらく会えないの。お母さんと田舎に帰るから」
「そうか、そういえば表に張り紙があったな」
「うん……」
「いつ帰って来るんだっけ?」
「一週間の予定だけど、田舎のおばあちゃんの具合がよくなくて、あたしだけ残るかも」
「でも新学期には学校に来れるんだろ?」
「……うん」
最後に彼女は私と目を合わせることなく、うつむいたまま儚い声で答えた。
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