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いつも書籍を買う時はカバーをかけてもらう。それを外して彼に見せた。
「この作品、映画化されましたよね」
海外作家のハイファンタジーで、二巻まで映画化されている。
「もういいだろう」
評価通りに面白い本で早く続きを読みたいのもあるが、仕事以外で話したことのない相手に対して会話を続けるなんてコミュニケーション能力は持ち合わせていない。
話したくないということを感じただろうに、それでも彼は立ち去ろうとせず、
「面白いですか」
会話を続けようとする。
「面白いよ。だから続きが読みたいのだけど」
「俺も読んでみたいです。読み終えたら貸していただけませんか?」
「えっ」
冗談じゃない。
気持ちが表情として露骨に顔にでてしまっただろう。
「ダメ、ですか」
「いや、だって、仕事の話以外にしたことないし」
そんな相手に何かを借りようとか普通は思わないだろうに。
「だからです。俺たちはただの同僚でしかありません。距離を縮めるには切っ掛けが必要ですよね」
自分にはとても真似できない。
「すごいな豊来って」
「ふふ、褒められました」
「ある意味でな。でも俺に対しては必要ない」
話す切っ掛けなどいらないからだ。
「貸してもいいが、翻訳されていないぞ」
それでも読むのかと意地悪く言ってみる。
「あ……なるほど」
断るために嘘をついていると思われたか。別にそれでも構わない。
本を手に席を立つ。
「文辻さん」
「そういうことだから」
そういうと彼を残してデスクを離れた。
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