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わらわはそもそも、とエルフは話し始めた。
彼女の話をまとめると、純粋培養森生まれ森育ち、由緒正しきエルフは皆、森に棲み、森の繁栄の一旦を担うという。
ということは、彼女は迷いエルフでもはぐれエルフでもないということだ。
血統書付きのエルフが、なぜ木の根をかじるという蛮行を行っていたかというと……。
「少々魔力不足での」
「へ?」
「木の根には森や大地の魔力が豊富に含まれておるんじゃ」
「だから、かじって魔力を補給していたと?」
「そういうことじゃ。気が触れたわけでも夢遊病でもない。毒キノコにやられて幻覚を見たわけでもない。転生者よ、己の浅慮を恥じ、深く反省することだな」
「理由はわかったが変であることには変わりねぇよ」
「ほう?」
エルフは口の端を上げて笑う。
「変であることは悪か? 罪か?」
オレは返答に詰まった。確かに変ではあっても、やめる理由にはならない。
弁が立つエルフって嫌だな。なんか。
「……美味いか、それ」
「美味いように見えるか?」
木をかじるエルフは、爪や服を土に汚している。
かじって食っているわけではなく、歯を突き立てて木の根からエキスを吸っているようだ。
根っこは比較的生えたてのようで、比較的柔らかそうではある。根には変わりないが。
「そこまでして魔力を補給しなければならない事情でもあるのか?」
「近頃は森が、野蛮な魔獣や無礼な人間に狙われることがある」
エルフは視線をそらす。
色素の薄い長いまつげが、木漏れ日に光る。
「長老の孫として、この森を守らねばならん」
「そうか。一応、理由があったんだな」
「わらわたちは日々、魔法について研究を続けている。そうなるとキノコや山菜だけではどうしても足りぬ」
まあ、転生者には関係のない話だな。エルフはつぶやく。鳥の声に消えるような、木のざわめきに隠れるような、儚げな声で。
形の良い薄い唇に付く、土汚れ。
「……明日のこの時間に、またここに来る」
「なんじゃ、いきなり」
「ちょっと調理してみるよ」
オレはエルフに言うと、彼女の足下にあったもう一本の根を拾い、かじった。
「な、何をしておる!」
「か、固ひ……」
「それはそうじゃろうて!」
エルフがオレの奇行に綺麗な目を丸くする。
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