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口に入れた根は、確かに見た目よりはずっと柔らかい。それでもかみ千切れはしないが。
「森へは元々、食材探しに来たんだ。良い食材が手に入った」
「良い、食材……?」
エルフは、フッ、と笑った。
「変なやつじゃな、転生者」
「変なことは罪じゃないんだろ?」
オレの言葉に、エルフはまた笑った。
小馬鹿にしたような、高飛車な、けれどさっきよりは幾分優しげな笑顔で。
町に戻ると、そろそろ日暮れだからか、人手が増していた。町の中央を貫く大通りが賑やかだ。
王都と商都をつなぐ街道沿いにあるこの町は、日々訪れる冒険者や旅人、行商人などのおかげで発展している。
武器屋、道具屋、宿屋など、RPGでおなじみの店が並ぶのを見ると、異世界に来たなぁと改めて感じたり。
「シンタロ!」
駆け寄ってきたのはオレの食堂の常連で、宣伝隊長を自称している、魔道学士のアンジェ。
長身にロングスカートのローブとケープコートがよく映える。ここまでは正統派な魔法使いの服だが、片眼鏡をかけていて、ごつい腕輪と指輪を複数つけている。なんだか重そうだといつも思う。ウェーブがかかった長い赤毛は無造作に束ねている。
「シンタロ、今日の定食は? どこに行っていた? 何だ、その枝は?」
「枝じゃなくて根っこ。森で食材を探していたんだ」
「食材だと? 君が研究熱心なのは認めるけど、少し休んだ方が良いんじゃないかい?」
「ご心配どうも。夕定食は山菜天ぷらだよ」
「テンプラ!」
アンジェの目の奥がキラキラと輝いた。
普段は控えめな瞳が、食事のこととなると大きく見開かれ、オレンジ色の光彩を見せる。
相変わらず食い意地がすごい。
魔法学士というからには、頭脳労働で、カロリーを消費するのだろうか。十六にしてすでにエリート街道まっしぐら(らしい)彼女だが、美味いものの前では子供みたいなテンションになる。
「ギルドのみんなにも宣伝してくるね! じゃあ後で!」
「はいはい。待ってるよ」
アンジェはスキップに近い軽快な足取りで爆速で去って行った。話し込んで開店準備を邪魔しないようにとの配慮である。
おしゃべり好きで時に余計なことも宣伝するアンジェだが、こういうところは気にかけてくれるのだ。
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