「どうも」

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「どうも」

 土曜日の朝十時。巨大な県立公園の、指定された一角に着くと見慣れた男子三人が目に入った。ぶらぶらと近寄って行く。私に気付いた田中君が立ち上がった。お疲れ様です、と頭を下げられる。橋本君と綿貫君もそれに従った。お疲れ、と軽く手を振る。提げたビニール袋が擦れて音を立てた。 「おなご達はまだ来ておらぬのか」 「何処の殿様ですか、葵さん」  私のボケに田中君がすぐツッコミを入れる。肩を竦めつつ靴を脱ぐ。ブルーシート越しに芝生の感触が伝わって来た。傍らの桜を見上げる。綺麗なもんだね……って、ちょっと待てや。おい、と上を指差す。途端に三人揃って顔を逸らした。見えているんだな。私だけじゃないんだな。 「君達、あれを把握した上で此処を選んだのか」 「むしろ集合をかけた理由と言いますか」 「どういうこっちゃ。全くいい気分はしないぜ」  その時、お疲れー、と親友のデカい声が響き渡った。振り返ると恭子がぶんぶん手を振りながら此方へやって来る。その傍には咲ちゃんと佳奈ちゃんが並んでいた。よう、と手を振り返す。三人娘は仲良く到着した。 「駅でバッタリ出くわしたのよ。いやー、今日は、幸先、が、いい……」  ブーツを脱ごうとした恭子の動きが止まる。そしてバランスを崩した。慌てて咲ちゃんが支える。しかし恭子の視線は樹上から離れない。どうしましたか、と視線を追った咲ちゃんも固まった。何? と後に続く佳奈ちゃんも目を見開く。さて、と私は田中君の肩に腕を置いた。 「説明しろ。どう見ても、桜の枝に首を吊った半透明の男がぶら下がっているのだが」 「……やっぱり全員、見えますか」  その時、男が此方を向いた。思いっ切り目が合う。どうも、と片手を挙げられ気が遠くなった。
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