君と、サクラ

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その言葉の意味が、その時の私には分からなかった。 学校で目立つ奴というのは花形で、高校時代に開花した人生は、この先何をしなくとも花が咲き続ける人生なんだろうな、と勝手に決めつけていた。 教室にも行けない、クラスメイトにも溶け込めない。 そんな世の中すべてに背を向けたような私の人生とは比べ物にならないくらいに明るい場所にあり続けるんだろうな、と。 「卵焼き、もーらいっ」 「あっ、ちょっと!」 母親の得意な海苔入り卵焼きを奪われて、取り返そうとしたが、遅かった。 口に入れて、モグモグしている彼の横顔が、一瞬泣いているように見えて、私は慌てた。 「ね、どうして・・・・」 「ゲホッ、ゲホッッ」 卵焼きが喉の奥に詰まったようで、陸は勢いよく噎せた。 水筒のお茶を渡すと彼はそれを飲み干して 「わりぃ、わりぃ、急いで食ったら喉に引っ掛かって・・・」 と、涙目で笑った。 なんだ、喉に引っ掛かっただけか。 その時の私は、日鳥 陸のことを何も知らなかった。
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