君と、サクラ

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「生徒玄関に防犯カメラを設置しました」 全校集会で発表されたその一言で、私の靴が消える現象は嘘のように無くなった。 あの日、巾着袋に靴を入れて持ち歩いていた私に室谷は言った。 「明日から、玄関に靴置いてきて大丈夫だから。よく耐えたな、表野」 泣きそうだった。 小さい子供みたいに大声で泣いてしまいそうだった。 私の、心も身体も精神も、すべて守ってくれた世界でたった一人の大人だ。 母親以外の誰かに守ってもらえた事がこんなに幸せだなんて思わなかった。 愛情って、どんな場所にどんな風に落ちてるか分からない目に見えない宝石みたいなものだ。 「表野!」 振り向くと、室谷が走ってきていた。 「お前、日鳥の家わかるか?橘酒店の隣」 「橘酒店なら帰り道に通りますけど」 「これ、日鳥に届けてきてくれないか?」 室谷の手には色褪せたサッカーのユニホームが握られていた。
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