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ドキドキとザワザワがごちゃ混ぜになると、人間のからだは得体の知れない不協和音に包まれるんだ、と初めて知った。
自分の足が橘酒店に近づいている。
まさに不協和音の絶頂だ。
「あ・・・」
橘酒店の隣の家に用があるのだが、橘酒店の店先に不自然なほど人だかりが出来ていて、私は彼らに訊ねた。
「あの、ここの隣の家に用があるんですが・・・」
「あんた、今はやめておいた方がいいよ」
年配の主婦が言った。
「そうそう。日鳥さん家、また暴れてるみたいだから・・・」
「あ、暴れてる!?」
私が驚くのと同時にガッシャァァァンッ、とガラスが割れる音がした。
中から声がする。
「お前はっっ、誰のお陰でデカくなれたと思ってんだ!?ええっ!?」
男性の罵倒する声だ。
「サッカーだとっ!?サッカーなんかする暇があったら働いて来いよバカ野郎っ!!」
さらに大きな罵声が路上に響き渡る。
「橘さん、警察に電話っ!陸ちゃんが危ないかもしれないっ!」
と、外から中の様子を伺っていたお年寄りが橘酒店へ入っていった。
私は彼らと一緒にそこで立ち往生するしかなかった。
色褪せたユニホームを持つ両手がブルブルと震え出すのを必死に堪えるしかなかった。
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