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 人気のない空き教室で、オレはスマホに文字を打ち込んでいく。読み上げアプリが話し終わると、戒田は「なるほど」とつぶやいた。  戒田はオレの顔に向けた目を、忙しなく動かしている。きっと、顔を這いまわる第二の口を見ているのだろう。オレが動揺しているからか、第二の口はいつも以上に忙しなく動き続けている。 (それにしても、相変わらずぶしつけな目を向けてくるやつだな)  正直、オレは戒田のことがあまり好きではない。きょろきょろとよく動く三白眼は、いつも見られているような気がして、落ち着かない。おせっかいな性格なのか、さっきのように、突然話しかけてくることもある。こっちの気持ちも考えず、距離を詰めてくる戒田が、あまり好きではない。  オレの中で、戒田という人間は配慮に欠けた、できるだけ関わりたくない人物だった。 (そんな奴に気づかれるなんて)  考えてみると、こうして気づくやつだから苦手なのだ。  好奇心に満ちた戒田の目が、いつものように忙しなく動いている。人によっては人懐っこいと称されるそれから、オレは今すぐ逃げ出したかった。 「さっきの話を聞く限りさ、山子は自分の口が見つかるまで、何も食べられないってことだろ?」  僕は彼の問いに、うなずいて見せる。 「じゃあ、見つけるしかないじゃん」  僕は首をかしげる。話すことが好きではないせいで知らなかったが、口がきけないのは、予想以上に不便だ。 「だから、山子の口だよ。どこにいるのか、心当たりはないの? その口みたいに、どこかを這いまわってるかもしれないでしょ?」  どうやら、彼は僕の口を探してくれるらしい。彼のことは苦手だが、正直助かる。食べることは苦手だが、このまま食べられなければ、命に係わる。  空腹だったことを体が思い出したのか、お腹が鳴った。気恥ずかしさを隠すように、オレはスマホに文字を打ち込む。 「ありがとう」  機械的な声で読み上げられると、戒田は「任せてよ」なんて、明るく言った。
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