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 幼少期から食が細く、オレはそもそも食べるのが得意ではない。残さずに食べなければいけない給食は、小学生のころからの天敵だ。それが、拍車をかけて苦手になったのが、中学一年生のころのことだった。 「山子の食べ方って、ウサギみたいで可愛いよね」  クラスメイトの何気ない一言を、今でもよく覚えている。  オレは苦手な納豆巻きを食べる手を止め、金縛りにあったように動けなくなった。  誰かに食べているところを見られていた。そう思うと、急に気分が悪くなり、食べたものが胸からせり上がってきた。無理やり食べた給食を机に吐き出したあの時の臭いが、今も鼻にこびりついて離れない。  それからオレは、人前で食べるのことがさらに苦手になったのだ。ついでに納豆は臭いを嗅いだだけで吐き気がする。  そんなオレに転機が訪れたのは、学年が一つ上がる日のことだった。憂鬱な気分で起きたオレは、頭を掻いたときに、指をなにかにかまれた。驚いて鏡で確認してみると、そこには真っ赤な舌を出した口がくっついていたのだ。  いったいこれは、なんなのだろう。不気味に思いながらも指を近づけると、それはオレの肌の上をすべりながら、背中を移動していった。ナメクジが這うような気持ち悪さに、背筋が凍り付く。追いかけても捕まえられず、その口はどこかに隠れてしまった。 (また給食か)  きっと寝ぼけていたのだろう。そう納得し、数日が経った頃のことだ。机に並んだ給食を前に、オレは憂鬱な気持ちをおさえられず、ため息をついた。  家では誰にも見られていないという安心感から、まともに食事ができた。食べないとお腹が空くと分かっていても、気が重い。  給食時間、右手に箸を持って空を漂わせていると、ふと視界の端になにかが見えた。視線を給食からずらし、左手首に目をやる。  袖の間から、赤い唇がのぞいていた。唇は空で動く箸を追いかけるように、ちろちろと舌を動かしている。
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