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「無理して食べなくてもいいよ」  こっそり告げられた言葉に、顔に熱が集まる。  食べていないことに、気づかれていたのだろうか。それとも、少食なオレがこんなに早く食べるはずがないと思っているのか。どちらにせよ、情けないことには違いない。 「……なんで、そんなことを言うんですか?」  恥ずかしくて、絞り出した声が震える。うつむいたオレの顔を、埜呂先生が覗き込む。 「先生は、オレがちゃんと食べられることが、嫌なんですか?」 「そうじゃないよ、ただ」 「ただ、なんですか? オレ、無理なんてしてません。食べたくて、食べてるのに、先生はオレのこと、嘘つきって言いたいんですか?」  羞恥心で、口が勝手に動いて止まらない。オレはちぐはぐな言葉を、次々と埜呂先生にぶつけた。うつむいた顔を上げると、ぼんやりした彼の目と視線がかち合った。 「分かったよ。変なことを言ってしまって、悪かったね」  先生はわずかに眉を下げて言うと、曲げていた背中を伸ばし、立ち去って行った。 (なんだよ)  イライラする。オレは怒りとともに吐き気を感じて、口元をおさえた。  せっかく食べられるようになったと、調子にのっていた気持ちが沈んでいく。自分の口ではないくせに、自信なんて持って馬鹿みたいだ。  すべてを吐き出したい気持ちをこらえ、オレは深く息を吸い込んだ。  翌日、鏡を見てみると、自分の口がなくなっていた。鼻の下には、唇のない、つるんとした肌があるだけだ。 (……どうしよう)  鼻の下に手を当て、オレはなにもないそこをなぞる。そんなオレをあざ笑うように、頬のあたりで第二の口が、赤い舌を出していた。
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