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「観念しろ」
男が、今にも凍てつきそうなほどに冷たい声で、そう告げる。
それは、声の矛先を向けられていない七緒でさえも、怯んでしまいそうなものだった。
……心臓が、どくどくと早鐘になる。
「悪いが、俺は手加減をしらない。……お前は、また罪を重ねるんだな」
軍服の男が、一歩七緒のほうに近づいてくる。そのとき、七緒の足元に転がっていた例の不審者が、素早く立ち上がった。
かと思えば、懐からナイフを取り出し、七緒の首元に当てる。少し皮膚が切れたらしく、すーっと赤が零れ出た。
「この女の命が惜しければ、俺を見逃すんだな!」
男が、そう叫んだ。
その言葉を聞いて、七緒はようやく自身が置かれた立場に気が付く。
(私、人質にされてる……!)
男が七緒の身体を強引に引きずって、一歩一歩後ろに足を引く。
七緒は、自然とごくりと息を飲む。……人質など、未知の経験である。いや、むしろ。
(故郷は平和だったから、犯罪なんてあんまりなくて、平和だったのに……!)
なのに、帝都に来た初日に、犯罪に巻き込まれている。
心の中で「帝都は、物騒なところだわ!」と叫びつつ、七緒は冷や汗が自身の身体を伝うのがよくわかった。
目の前にいる軍服の男は、じっと立っている。だが、その鋭い視線は逸らされない。
じぃっとこちらを見ている。……それも、男ではなく――。
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