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(あの人、私のことを見ていないかしら……?)
そうだ。今、あの男の人は。――七緒を人質にとる男ではなく、七緒自身を見ている。それに、気が付いた。
(でも、この不審者は気が付いていない。あと、距離を取ったからと、油断して少し拘束が緩んだわね……)
今ならば、逃げられるのではないだろうか。
いや、しかし。逃げたらどうなるかわかったものじゃない。
頭の中でぐるぐると思考回路が回って、七緒は混乱する。……が、さすがにこのままやられっぱなしは無理だ。
(一か八か、やってやる――!)
そう思い、七緒は男の足の甲を――思いきり、踏みつけた。
「いってぇ!」
男がそう叫んで、拘束が緩む。瞬間、七緒は男の腕の中から抜け出す。
「軍人さん! 助けてくださいっ!」
思いきりそう叫んで、軍服の男のほうに走り出す。軍服の男は、表情一つ崩さずに七緒のほうに駆けてくる。
「――よく勇気を出してくれた。あとは、任せろ」
彼が小さくそう七緒に告げて、七緒の隣をすり抜ける。
そして、素早く移動して――あっという間に不審者の男に追いついて。その身体を、押し倒した。
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