第1章

8/10
150人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「は、放しなさいよー!」  そう叫んで、七緒は思いきり男の肩に噛みついた。  瞬間、男の力が緩む。その隙をついて、七緒は男の腕から飛び降りる。 「い、いってぇなぁ!」 「そっちが私のことを攫おうとするからでしょう!?」  ぐいっと男に顔を近づけられて、すごまれて。七緒は、応戦するかのように強い声でそう叫ぶ。 「大体、誘拐って立派な罪だから! 利益もないのに罪を犯すなんて、アホのすることだわ!」  散々男に向かって声を荒げていると、先ほど通ってきた道の方向から足音が聞こえてきた。  はっとしてそちらに視線を向ける。 (もしかして、この男の仲間……?)  そうだとすれば、七緒はピンチどころではなく、大ピンチだろう。  どんどん喉が渇く。建物の影になっていて、その人物は顔が見えない。ただし、背丈からして男のようだ。  その男が、影から出てくる。綺麗に切りそろえられた黒色の髪の毛が、さらりと風に揺れる。鋭い眼光は、七緒と男を貫いていた。 「……軍人、さん?」  軍服を身にまとったその男は、見るからに軍人だろうか。が、その胸元には見知らぬバッチがついており、ただの軍人ではないことは一目瞭然だった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!