150人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「は、放しなさいよー!」
そう叫んで、七緒は思いきり男の肩に噛みついた。
瞬間、男の力が緩む。その隙をついて、七緒は男の腕から飛び降りる。
「い、いってぇなぁ!」
「そっちが私のことを攫おうとするからでしょう!?」
ぐいっと男に顔を近づけられて、すごまれて。七緒は、応戦するかのように強い声でそう叫ぶ。
「大体、誘拐って立派な罪だから! 利益もないのに罪を犯すなんて、アホのすることだわ!」
散々男に向かって声を荒げていると、先ほど通ってきた道の方向から足音が聞こえてきた。
はっとしてそちらに視線を向ける。
(もしかして、この男の仲間……?)
そうだとすれば、七緒はピンチどころではなく、大ピンチだろう。
どんどん喉が渇く。建物の影になっていて、その人物は顔が見えない。ただし、背丈からして男のようだ。
その男が、影から出てくる。綺麗に切りそろえられた黒色の髪の毛が、さらりと風に揺れる。鋭い眼光は、七緒と男を貫いていた。
「……軍人、さん?」
軍服を身にまとったその男は、見るからに軍人だろうか。が、その胸元には見知らぬバッチがついており、ただの軍人ではないことは一目瞭然だった。
最初のコメントを投稿しよう!