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数週間前、高校生時代からの私の男友達もであるHの家が完成した。
見事な桜並木に面した、新築1戸建ての立派な家だ。
早速、週末にその家のお披露目兼お花見パーティーに招待される私。
勿論、私は二つ返事で招待を受けると、お花見に相応しい手土産を片手に、そこを訪れる。
と、そこには既に沢山の客人達が到着しており、皆、芝生もまだ新しい庭で、目の前の歩道を彩る満開の桜を鑑賞しながら、食事や酒を楽しんでいた。
私も、手土産をHに渡すと、客人達に混ざり、豪勢な食事に舌鼓を打ち始める。
そうして、花見の宴も終盤になった頃、家主であるHの提案でその場にいる全員を入れた記念の写真が撮影された。
それを早速印刷する為、スマホで撮った写真のデータを屋内にある自分のPCへと送るH。
彼は、それを直ぐ様印刷し、来客達に配る為、一旦家の中の自分の部屋へと引っ込んでいく。
私を含む客人達は皆、外にて美しい桜を楽しみながら、記念写真の完成を今か今かと待っていた。
と、
「うわぁぁぁ?!何だ、これ?!」
家の中から、Hの叫び声が聞こえて来る。
慌てて駆け付ける私達。
と、そこには――PCがあるデスクの前で椅子から転げ落ち、床にへたり込むHがいた。
私達に気付くや、震える手で目の前のPCの画面を指差してくるH。
私達は、彼の指先につられる様に、画面を覗いてみる。
そこに写っていたのは――先程撮影したばかりの私達の集合写真だった。
が、庭や家の外壁の至る所から、真っ白く長い腕が生え――それらが全てHの足や手、それに頭等を掴んでいるのだ。
「何だよ、これ?!何なんだよ?!」
画面を見つめたまま、半狂乱で叫ぶH。
私達は念の為、Hのスマホの画像も確認してみる。
と、やはりスマホにある元の画像の方にも無数の不気味な腕がしっかりと写り込んでいた。
だが、無論、庭はおろか家の中にすら、そんな腕は生えていない。
それに何より、この家は新築なのだ。
幽霊が出る様な心理的な瑕疵は有り得ない。
それは、この家が建つ土地も同じくで――。
元来、かなりの怖がりであるHは、家を建てる前に土地に関して事前の調査を行い、更に地鎮祭までして貰っていたのだ。
その調査の際、少なくとも記録に残っている限りでは、この土地で不幸な事件等は起きていなかったらしい。
勿論、戦地でもなければ、墓場や防空壕の跡地でも無かったそうだ。
つまり、彼が調べた限りでは怪異が起こる筈のない――『キレイ』な土地なのである。
が、それは起きてしまった。
ちなむに、H自体が何かしらの恨みを買っていた可能性もあるが――友人としては、そこまで恨みを買う程悪い男ではない……と、思う、という意見もつけ加えておく。
ともあれ、結局、その日はパニックになるHを宥めながら、それぞれ帰路に着く私を含めた来客達。
――しかし、この日以降、H宅では心霊現象が多発する様になってしまったらしい。
夜には女の生首が天井から落下し、Hの腹の上で笑っていた事もあったそうだ。
それでも、この家を手放そうとはしないH。
昨日、久し振りに逢った彼は、私が「何故引っ越さないのか」と問い掛けたところ、やつれた表情でこう答えた。
「……もう、何処に逃げても無駄だと思うんだ。だって、何も起きない筈の土地を調べて買ったんだぜ?……きっと、もう、何処に行っても俺は逃げられないんだよ。……なぁ?怪異っていうのは、案外、こうしていきなり理不尽に襲って来るものなのかもしれないな」
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