いろいろおなかが空いた

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 朝9時まで寝たお陰でおなかがいっぱいになっていた。ゆらゆらさせながらキッチンに行くとテーブルの上に彼女のメモが残されていた。 「図書館に行って来ます」  彼女は知識'食'欲が旺盛だから図書館や博物館に行くのが好きだ。ぼくはそういうのはあまり得意じゃないんで音楽を聴いたり、ギターを弾いたりする。  あ、しまった。スマホを電源に繋ぐのを忘れていた。おなかぺこぺこみたいだ。繋いであげるとガツガツ電気を食べ始める。出掛けようと思っていたのに出鼻をくじかれてしまった。  スマホに電気'食'欲があるというのはおかしいと言う人がいるけど、そんなことを言えば睡眠'食'欲も性'食'欲も知識'食'欲も言葉の誤用ってことになってしまう。  そうしたことを帰って来た彼女に言ってみた。 「今日読み'食べた'本におもしろい話があったの。……太古に失われた歴史があって、農耕という作業があったそうなの」 「農耕?」 「どんなものなのかは曖昧なんだけど、そのお陰で食料を食べることで生きるのに必要なエネルギーを得ることができたんだって。それで、他のものに頼る必要がなくなったって言うの。農業革命とか言ったみたい」 「食糧だけでおなかがいっぱいになればそりゃ革命だよね。ぼくなんかわざわざ10時間寝て睡眠でエネルギー補ってるのに」  くすくす笑いながら、 「最近、おなかが出て来ちゃったのもそのせい?」と右側をひらひらさせてからかう。 「'おなかバランス'を見てみるよ」としぶしぶ答えざるをえない。  'おなかバランス'というのは最近流行のアプリで、各種'食'欲の獲得量を偏差値化してレーダーチャートに落とし込んでくれるもので、睡眠'食'欲を知識'食'欲にこれくらい振り向けたらといったアドバイスもしてくれる。 「今日のお昼どうする?」とぼくが訊くと、 「あたしは大丈夫かな。君が'食べたい'ならお手伝いするけど」と言う。  彼女の太ももは昼前のやわらかい光を受けて輝いていた。 「おなか空いてきたかも。おいしいもの見ちゃうと」  ぼくらはぬらぬらし始めた性'食'触手を絡めながらキッチンからベッドルームに向かった。
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